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第四世代

シモーヌ編 学者根性

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新暦〇〇三六年三月二十五日



でまあ、ここからはシモーヌの学者根性を見せられることになった。

きたるあきらの母親であるはるか及びビアンカやメイガスの例から、胎盤は基本的に透明なようだ。母体の一部である場合は透明になるからだろう。ただ、部分的にそうじゃなかったりするので、どこまでが<母体>で、どこからがそうじゃないと判定されているのかは、まだ分かっていない。

ちなみに<臍の緒>は透明じゃない。つまり、『母体ではない』という判定になっているんだろう。むしろ<胎児の体の一部>と見做されているわけだな。

胎児は、きたる黎明れいあやラケシスを見ても分かるように透明じゃない。だから、透明な体を持つシモーヌを観察すれば、肉眼で胎児の変化が見られるというわけだ。

はるかきたるあきらを妊娠した時にもそれなりに記録は取らせてもらってたが、はるかにストレスを掛けないようにするために、あくまで彼女が池から上がった時などに一時的にだった上に離れたところからだったことで詳細には記録できていない。

ビアンカの時にも、特異な形での妊娠だったこともあり、大事を取って概要以外の記録は取っていない。

メイガスの場合はそもそもラケシスが生まれてからだったから記録は取れてないしな。

だからこそシモーヌにとってはまたとないチャンスというわけだ。あの不定形生物の中で瑠衣るいを生んだ後の経産婦の状態で再現されている上に記憶もあるので、本人としてもそれだけ余裕もあるんだろう。

カメラで自分の腹を撮り、確実に記録として残すつもりのようだ。

俺としては彼女がそれを望むなら反対する理由もない。別に、

『我が子を研究材料にされてる』

みたいな感覚もない。何かの実験に使われるのならそれは勘弁してほしいが、ただ記録を取るだけだしな。

それにその記録が、今後活かされていく可能性だってないわけじゃない。

とは言え、地球人社会では<人工子宮>は何千年も前に実用化されており、それを用いた妊娠の経過を詳細に記録したものはあるものの、その一方で、実際の生身の母体の中にいる胎児の発育を記録したものはさすがになかった。

だから本当に学術的にも超貴重なそれになるわけだ。学者としてはこんなチャンスはそれこそ逃せないだろう。でも、ビアンカが黎明れいあを宿した時には遠慮してくれたし、その辺りの節度はわきまえてくれている理性的な女性なんだ。シモーヌは。

だから愛せる。自身の好奇心ばかりを優先して相手の気持ちを慮ることがないような女性だったら、結婚はしてなかったよ。

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