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第四世代

閑話休題 牙斬の日常

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牙斬がざんは今、ビクキアテグ村から約二千キロ離れたところでルプシアンのボスの座に収まって、夷嶽いがくと同じようにすっかり<普通の獣>として生きてるんだよな。

サーモバリック爆弾を凌いだ時に真っ黒に煤けた鱗もほとんどが抜け落ちて代わりに体毛が生え、元の、

『本当は透明だが全身に生えた毛が光を乱反射して白く見える』

体に戻り、見た目だけなら、

<白いルプシアン>

のようになった彼は、雌とつがって子も生した。群れを率いているその姿は、幸せそうにも感じ取れるんだ。

もちろん自然の中で野生の獣として生きるのは大変だ。俺達よりよっぽど死が身近だと思う。でもな、得体のしれない何者かに人間への憎悪を植え付けられて人間を襲い人間に恨まれるような生き方が幸せか? おそらく<本能>とも違うんだぞ? そんなものに支配されて敵対するとか、馬鹿馬鹿しくないか?

単純な<生存競争>ならこっちも容赦はしない。でも、あの不定形生物由来の<怪物>はそうじゃないんだ。何者かの身勝手な都合で、本来なら存在しない習性を植え付けられているだけだという可能性が高いんだよ。

不定形生物の中に潜んでいるらしい何者かにどんな事情や背景があるのかは知らない。しかしだからって命を兵器のように使うのは違うんじゃないか? 文句があるならちゃんと自分が真っ向から挑んで来いってんだ。

まったく。

まあ、本当に挑んでこられても困るけどな。

しかも、向こうもそれができるならやってるだろうし、いろいろ制限があるんだろう。決まった姿を取るのも、落雷などによる偶発的なそれが原因ということなら、意図的にやってるわけでもないんだろうし。単なる<事故>なのかもしれないな。

いずれにせよ、夷嶽いがく牙斬がざんも、人間とさえ関わらなければ普通の獣として生きていけるんだから、これからもそれを基準に対処していくさ。

なにより、牙斬がざんの子供達がまた可愛くてな。しかも別に何か特殊な力を受け継いでるわけでもないようだし。

この台地の上は、とても豊かだ。多くの命を支えられるだけのキャパシティがある。それを活かしてそれぞれが生きていける工夫をこそ続けたい。

ただ、あの不定形生物が基になって誕生するのは<怪物>だけじゃないからな。そして別に何か決まった法則があるわけでもないのは、今のところの印象だ。同じ時期に同じ人間が一人しか現れないというわけでもない。

何となくそんな予感はあったものの、それが現実のものになるとはね。

そのことについてもまたおいおい触れていくさ。

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