1,638 / 2,663
第四世代
閑話休題 牙斬の日常
しおりを挟む
牙斬は今、ビクキアテグ村から約二千キロ離れたところでルプシアンのボスの座に収まって、夷嶽と同じようにすっかり<普通の獣>として生きてるんだよな。
サーモバリック爆弾を凌いだ時に真っ黒に煤けた鱗もほとんどが抜け落ちて代わりに体毛が生え、元の、
『本当は透明だが全身に生えた毛が光を乱反射して白く見える』
体に戻り、見た目だけなら、
<白いルプシアン>
のようになった彼は、雌と番って子も生した。群れを率いているその姿は、幸せそうにも感じ取れるんだ。
もちろん自然の中で野生の獣として生きるのは大変だ。俺達よりよっぽど死が身近だと思う。でもな、得体のしれない何者かに人間への憎悪を植え付けられて人間を襲い人間に恨まれるような生き方が幸せか? おそらく<本能>とも違うんだぞ? そんなものに支配されて敵対するとか、馬鹿馬鹿しくないか?
単純な<生存競争>ならこっちも容赦はしない。でも、あの不定形生物由来の<怪物>はそうじゃないんだ。何者かの身勝手な都合で、本来なら存在しない習性を植え付けられているだけだという可能性が高いんだよ。
不定形生物の中に潜んでいるらしい何者かにどんな事情や背景があるのかは知らない。しかしだからって命を兵器のように使うのは違うんじゃないか? 文句があるならちゃんと自分が真っ向から挑んで来いってんだ。
まったく。
まあ、本当に挑んでこられても困るけどな。
しかも、向こうもそれができるならやってるだろうし、いろいろ制限があるんだろう。決まった姿を取るのも、落雷などによる偶発的なそれが原因ということなら、意図的にやってるわけでもないんだろうし。単なる<事故>なのかもしれないな。
いずれにせよ、夷嶽も牙斬も、人間とさえ関わらなければ普通の獣として生きていけるんだから、これからもそれを基準に対処していくさ。
なにより、牙斬の子供達がまた可愛くてな。しかも別に何か特殊な力を受け継いでるわけでもないようだし。
この台地の上は、とても豊かだ。多くの命を支えられるだけのキャパシティがある。それを活かしてそれぞれが生きていける工夫をこそ続けたい。
ただ、あの不定形生物が基になって誕生するのは<怪物>だけじゃないからな。そして別に何か決まった法則があるわけでもないのは、今のところの印象だ。同じ時期に同じ人間が一人しか現れないというわけでもない。
何となくそんな予感はあったものの、それが現実のものになるとはね。
そのことについてもまたおいおい触れていくさ。
サーモバリック爆弾を凌いだ時に真っ黒に煤けた鱗もほとんどが抜け落ちて代わりに体毛が生え、元の、
『本当は透明だが全身に生えた毛が光を乱反射して白く見える』
体に戻り、見た目だけなら、
<白いルプシアン>
のようになった彼は、雌と番って子も生した。群れを率いているその姿は、幸せそうにも感じ取れるんだ。
もちろん自然の中で野生の獣として生きるのは大変だ。俺達よりよっぽど死が身近だと思う。でもな、得体のしれない何者かに人間への憎悪を植え付けられて人間を襲い人間に恨まれるような生き方が幸せか? おそらく<本能>とも違うんだぞ? そんなものに支配されて敵対するとか、馬鹿馬鹿しくないか?
単純な<生存競争>ならこっちも容赦はしない。でも、あの不定形生物由来の<怪物>はそうじゃないんだ。何者かの身勝手な都合で、本来なら存在しない習性を植え付けられているだけだという可能性が高いんだよ。
不定形生物の中に潜んでいるらしい何者かにどんな事情や背景があるのかは知らない。しかしだからって命を兵器のように使うのは違うんじゃないか? 文句があるならちゃんと自分が真っ向から挑んで来いってんだ。
まったく。
まあ、本当に挑んでこられても困るけどな。
しかも、向こうもそれができるならやってるだろうし、いろいろ制限があるんだろう。決まった姿を取るのも、落雷などによる偶発的なそれが原因ということなら、意図的にやってるわけでもないんだろうし。単なる<事故>なのかもしれないな。
いずれにせよ、夷嶽も牙斬も、人間とさえ関わらなければ普通の獣として生きていけるんだから、これからもそれを基準に対処していくさ。
なにより、牙斬の子供達がまた可愛くてな。しかも別に何か特殊な力を受け継いでるわけでもないようだし。
この台地の上は、とても豊かだ。多くの命を支えられるだけのキャパシティがある。それを活かしてそれぞれが生きていける工夫をこそ続けたい。
ただ、あの不定形生物が基になって誕生するのは<怪物>だけじゃないからな。そして別に何か決まった法則があるわけでもないのは、今のところの印象だ。同じ時期に同じ人間が一人しか現れないというわけでもない。
何となくそんな予感はあったものの、それが現実のものになるとはね。
そのことについてもまたおいおい触れていくさ。
0
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる