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第四世代

玲編 その後の夷嶽

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ところで、アリアンによって台地の麓まで移送されたらすぐさま環境に適応し自身に近い種の鵺竜こうりゅうの雄と番って子まで生した夷嶽いがくがどうしてるかと言うと、五個の卵を産んで、その内の四個が孵って、さらにその内の三頭が今も元気に育ってて、そんな自身の子を守って、立派に<お母さん>をやってるよ。

<人間>にとっては恐ろしい<敵>である夷嶽いがくも、ちゃんと普通の生き物として生きられるんだ。それを思うとがくは残念だったが、あの時点では倒す以外に選択肢がなかったからな。情報がなさ過ぎて。

けれど、そんながくの事例があったからこそ、夷嶽いがくはこうして生き延び、子を生すことまでできた。

<敵>だからといって必ずしもただ殺せばいいというわけじゃないのを、改めて感じる。ちなみに、夷嶽いがくの子供達は、普通に父親側の形質を受け継いだらしく、夷嶽いがくのような特異な能力は持っていないようだ。

それらを、上空に待機させた母艦ドローンで観察。記録している。

こうやって距離を取ることができれば、互いに穏当に暮らすことだってできるんだ。もちろん、それが叶わない<怪物>だって今後現れないとは限らない。だから<殺すという選択肢>も完全には放棄せず、その上でなんとかお互いに生きられる可能性は諦めることなく模索していきたいと思う。

そうだ。単純な住み分けだけでそれができるのなら、別に殺す必要はないはずなんだ。

とは言え、ビクキアテグ村を襲おうとしてあかりに殺された老オオカミ竜オオカミの事例のようなこともある。生きるためには他の命を奪わなければいけないという厳格な現実がある以上、<殺す>という事実から目を背けることもできない。

それら矛盾する考えの綱引きを、今後も俺は続けていくことになるだろう。と言うか、続けていきたいと思う。答は出なくても考え続けなきゃいけないことだと思うんだ。特に、人間同士で殺し合うことを回避するためには。

何度も言うように、人間は非力な生き物だ。群れて社会を作り自分達が生きられる環境を確保しないと生きていけない脆弱な生き物だ。だからこそ人間同士で殺し合うのは、自らの首を絞める行為なんだ。人間そのものが、

<人間社会を維持するためのリソース>

なんだ。その人間を人間の手で殺しててどうする? 殺人を犯した者や戦争を主導した者がその後どういう目で見られるか、無数の実例があるじゃないか。そこから学ばなくて何が<人間>か。

と、何度でも自らに言い聞かせる。俺自身が暴君となって虐殺行為に走らないため。俺の子供達を暴君にしないため。俺の仲間達を暴君にしないため。

俺はいつまででも考え続けるさ。

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