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第四世代
玲編 他の誰かが
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『ボクサー竜は木に登れない。ゆえに樹上に逃れれば追っては来ない』
その<常識>を覆す駿の技に、さしもの龍準も驚いた様子だった。ただ、三メートルほど跳び上がってみせたところで、足場として木の幹を捉えきれず、駿は枝に何度も引っ掛かりながら地上へと落ちた。
けれど、そうやって龍準を戸惑わせたことで、ドーベルマンDK-a玖号機と拾弐号機が間に合った。
樹上での戦闘は無理でも、飛び掛かるくらいはできる。
「!?」
思いがけない<連携>に、龍準はうっかり鎌を緩めてしまった。老いたりとはいえ、剛も歴戦の猛者。その隙を見逃すことはなかった。
「ガアッ!!」
力の限り暴れ、龍準の鎌の棘で肉を切り裂かれながらも脱出。地上へと落ちた。途中で木の枝に引っ掛かりつつ。
そんな剛を龍準が追おうとするものの、玖号機と拾弐号機も地上に降りて迎え撃つ。
地上に下りさえすれば性能をフルに発揮できる。おそらく一機では厳しいが、二機が連携すれば、剛と駿が逃げる程度の時間は稼げるだろう。
と、それ以前に、龍準は見切りをつけたのか、茂みに姿を消し、遠ざかっていった。
こうして剛はかろうじて命を取り留めた。とは言え、今回のことで改めて剛の衰えがはっきりしてしまったのも事実だろうな。
普通のボクサー竜ではマンティアンにはまったく敵わない。それに対して剛は、ボクサー竜としては規格外の強さを持っていた。マンティアン相手でも一撃でやられてしまったりはしない程度には。
確かに龍準は、父親だと目されている龍然には明らかに届かないとはいえ、並のマンティアンよりも数段上の強さを持っている。だから剛が敵わなくても当然なんだろうが、それにしてもロクな抵抗もできなかったというのは、彼の衰えを何よりも物語っていただろう。
剛の命も、尽きようとしているんだ。
「ルルルルル……」
駿も、それを悟っているのかもしれない。以前は何かと剛に突っかかっていった駿だったが、最近ではそういう姿が見られなくなっていた。彼が自分より弱くなってしまったことを察したのだろうか。
龍準のこともありやや足を引きずるような歩き方をする剛に寄り添うようにして一緒に歩き、群れに戻る。
美しい<夫婦の姿>にも思える光景だが、しかし同時に、この裏では、剛の代わりに龍準の餌となったものもいたのは事実だろう。そんな犠牲があればこそ、今回では剛は命を落とさなかった。
これもまた、<生きる>ということだ。直接命をいただくわけではなくとも、自分の代わりに他の誰かが命を落とすことで自らの命を長らえる。
この<エゴ>を俺は忘れないでいなくちゃと思ってる。
その<常識>を覆す駿の技に、さしもの龍準も驚いた様子だった。ただ、三メートルほど跳び上がってみせたところで、足場として木の幹を捉えきれず、駿は枝に何度も引っ掛かりながら地上へと落ちた。
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「ガアッ!!」
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と、それ以前に、龍準は見切りをつけたのか、茂みに姿を消し、遠ざかっていった。
こうして剛はかろうじて命を取り留めた。とは言え、今回のことで改めて剛の衰えがはっきりしてしまったのも事実だろうな。
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剛の命も、尽きようとしているんだ。
「ルルルルル……」
駿も、それを悟っているのかもしれない。以前は何かと剛に突っかかっていった駿だったが、最近ではそういう姿が見られなくなっていた。彼が自分より弱くなってしまったことを察したのだろうか。
龍準のこともありやや足を引きずるような歩き方をする剛に寄り添うようにして一緒に歩き、群れに戻る。
美しい<夫婦の姿>にも思える光景だが、しかし同時に、この裏では、剛の代わりに龍準の餌となったものもいたのは事実だろう。そんな犠牲があればこそ、今回では剛は命を落とさなかった。
これもまた、<生きる>ということだ。直接命をいただくわけではなくとも、自分の代わりに他の誰かが命を落とすことで自らの命を長らえる。
この<エゴ>を俺は忘れないでいなくちゃと思ってる。
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