上 下
1,587 / 2,387
第四世代

玲編 答

しおりを挟む
えいの子を妊娠した兆候が見られるれいについて、

『彼女のための体制が必要』

にはなったものの、だからといって何か特別な対処をするのかと言えば、実はそうでもない。基本はただ見守るだけだ。これまで以上に慎重に緻密に。

何しろデータがないんだよ。

<地球人と同じ姿を持つ純血のマンティアンの妊娠・出産に関するデータ>

が。あればそれに則って具体的な体制作りもできるもののないんだから慎重に緻密に見守り、状況に合わせて即応するしかない。

俺達の毎日は、まあそれの繰り返しだな。その際にエレクシア達がデータを蓄積してくれてるから、次に同じような事例があった時には参考になる。

もっとも、その<同じような事例>はそんなに頻繁にあるわけでもないというのが悩ましいけどな。とは言え、一度得たデータは決して忘れないってのがロボットの強みでもある。人間は、一度きりの経験だったりすると時間と共にそれが薄れていってしまうからな。

まあそれがあるからつらかったり悲しかったりという経験も乗り越えられるという面もあるので、痛し痒しではある。

俺だって、じんを、ようを、ふくを、ひそかを亡くした、れんを亡くした、楼羅ろうらを亡くした、きたるを亡くした、それらの経験を受け止められているのは、その時の痛みや悲しみが和らいでいるからだしな。

そして今度は、まさに<俺の子>との別れが近付いている。その事実を思うだけで気が変になりそうだ。どれだけ生き死にを見てきても、それは慣れてしまえない。少なくとも俺は、な。

一方、AIやロボットには<心>がないから、つらいと悲しいとかも感じない。あるがままをあるがままに受け止めてデータとして残していくだけだ。そして地球人はそのデータによって様々なことを理解する。地球人自身の愚かさについても、それによって改めて客観視できるようになってきた。

これもまた事実だ。

そんな中で、新しい命を迎えようとしている。新しい命を迎えるからこそ、死と折り合えるんだというのを実感する。じんを、ようを、ふくを、ひそかを、れんを、楼羅ろうらを、きたるを亡くした、そして多くの命を見送ってきたその事実と向き合えるんだと感じるんだよ。

おそらく、孫ということになる<れいえいの子>をめいが見ることはないだろう。それまで彼女の命はもたないだろう。けれど、めいの命は確かに続いてる。めいが存在した事実は確かに残るんだよ。

俺はそれを大切にしたい。

『なぜ子供を生むのか?』

『子供を生むことに何のメリットがある?』

そんなことは、それぞれで勝手に答を探せばいい。だが、自分が見付けた答が他者にとっても<答>になるとは思わないことだ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

精霊のお仕事

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:123

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,308pt お気に入り:4,655

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:12,583pt お気に入り:6,021

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,123pt お気に入り:281

追放の破戒僧は女難から逃げられない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:618pt お気に入り:167

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,621pt お気に入り:9,008

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,452

処理中です...