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第三世代

灯編 ケインという人間

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こうしてケインは育児室から出たものの、イザベラとキャサリンについては、まだ衝突を繰り返していた。ケンカは別にいいにしても、いかんせん<攻撃力>が高いからな。最低限、<加減>ってもんを覚えてもらわないと迂闊に外に出せない。

ケインとは全く違うが、まあこれも『ケインじゃない』以上は当然のことだ。ケインと同じであることを期待するのは筋が違う。

そしてケインは、二人と顔を合わせることを恐れてか、ビアンカが食事を与えるために育児室に入ると、手前の部屋で自らビアンカの背中から下りて、隅の方で固まってしまう。

それを見たあかりが、

「ケイン~♡」

と部屋に入って声を掛けるものの、ケインは動こうとしない。まだビアンカにしか気を許してないということだろう。イゼベラやキャサリンと違って攻撃的ではないものの、まだまだ友好的ってわけでもないか。

先は長い。

あかりもそれは承知してくれている。

「やれやれ……」

部屋で待機しているドーベルマンMPMの前で頭を掻きつつ苦笑い。けれど別に怒ったりしてるわけじゃない。ただのポーズだ。無理にケインに近付こうともしない。

萌花ほのかを覗き込んで泣かせてしまったことがあるように、赤ん坊にとっては、<見知らぬ相手>は本質的に恐ろしいものだ。何しろ自分にとってどういう存在かが分からないんだからな。となれば警戒して泣くのは当たり前だろう。

『あやそうとして』とか『可愛いから近くで見たい』とか、そんなのは通じないんだよ。『あやそうとしてあげてるのに』『可愛いと思っただけなのに』なんて自分の感情を一方的に押し付けようとするから警戒される。<知らない相手><得体の知れない相手>は怖いんだ。<人懐っこい赤ん坊>ももちろんいるが、全員じゃない。それをわきまえないとダメだ。

萌花ほのかはすぐにあかりが危険な相手じゃないと感じてくれたみたいだが、それはあかりひかりに似ているところがあったからだろう。

一方、ケインは萌花ほのかじゃないし、しかも<アラニーズ>だ。そうなると萌花ほのかの時のようにはいかないさ。

あかりはそれをよく理解してくれてる。無理をしない。自分の感情を押し付けない。

<ケインという人間>

を受け止めてくれる。彼が自身の周りにいる者達が自分にとってどういう存在かを彼自身の中で整理するのを待ってくれるんだ。

でもまあ、同時に、なるべく早く仲良くなりたいとも思ってるんだけどな。

「だけど、思い通りにはいかないよね~」

そう言って穏やかに微笑んだ。彼女の<器>がそこに垣間見える。

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