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第三世代
灯編 命が終わる時
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「ゲ……? ゲ…プ……?」
老オオカミ竜にとってはそれこそ何が起こったのか分からなかっただろう。そしてそれを理解する間もなく、ビクビクと痙攣を始めた。手も足も、ただ虚空を掻くばかりでもう意味のある動きができない。
命が終わる時のそれだ。
「……」
灯は、確実に息の根が止まるまで、まったく容赦をしなかった。油断もしなかった。容姿は地球人そのものでありつつ、完全な<野生の獣の姿>がそこにはあった。
明るくて朗らかで家族をとても大切にしている灯の、もう一つの姿。
ビクキアテグ村で穏やかに暮らしていても、彼女の本質は獰猛なアクシーズなんだということがよく分かる。
外敵に対しては容赦ない、な。
けれど、ただ獰猛で残忍なだけじゃない。完全に息の根が止まったことを確認すると、
「じゃ、手伝って。久利生」
「ああ、分かった」
久利生と一緒に手際よく仕留めたオオカミ竜の解体を始めた。
奪った命は無駄にしない。自分達が生きているのは他の命をいただいているからだということも、彼女はよく理解している。だからこの老オオカミ竜の命も、きちんと自分達が生きるために役立てさせてもらうんだ。
「~♪」
とは言え、解体を始めた灯は、さっきまでとは打って変わって鼻歌交じりに楽しげだった。気持ちの切り替えが早い。
まあ、当然と言えば当然なんだけどな。
なお、オオカミ竜の肉は決して『美味い』という種類のものじゃない。ましてや年老いたオオカミ竜のそれじゃ、な。
ただ、下ごしらえや調理法によってはかなりマシになるから、無駄にはしないんだ。これがビクキアテグ村での<食肉の確保法>の一つではある。
まだ、畜産は始めていない。肉は基本的に多くを狩猟によって得ている。ドーベルマンMPMが狩ることもあるが、
『戦って勝つこと』
それが肉を得る条件だった。互いに命を同じ土俵に置き、戦い、そして勝つこと。これが生きるためには必要であることを忘れないために、敢えてそれを基本にしてる。
正直、俺には真似のできないことだな。こっちではエレクシアやイレーネやドーベルマンDK-aが狩ってくれたものをいただいてる状態だ。
戦う力を持つ者が多いビクキアテグ村ならではの方針だよ。
その中でも灯は、こと<狩り>においてはエキスパートである。ビアンカや久利生はあくまで<軍人>としてのスキルを持ってるんであって、<ハンター>ではないからな。
それでいて灯は、<ハンター>でありつつ仲間を慈しむ存在でもある。
これを彼女はちゃんとわきまえてくれてるんだ。
老オオカミ竜にとってはそれこそ何が起こったのか分からなかっただろう。そしてそれを理解する間もなく、ビクビクと痙攣を始めた。手も足も、ただ虚空を掻くばかりでもう意味のある動きができない。
命が終わる時のそれだ。
「……」
灯は、確実に息の根が止まるまで、まったく容赦をしなかった。油断もしなかった。容姿は地球人そのものでありつつ、完全な<野生の獣の姿>がそこにはあった。
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外敵に対しては容赦ない、な。
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「じゃ、手伝って。久利生」
「ああ、分かった」
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「~♪」
とは言え、解体を始めた灯は、さっきまでとは打って変わって鼻歌交じりに楽しげだった。気持ちの切り替えが早い。
まあ、当然と言えば当然なんだけどな。
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ただ、下ごしらえや調理法によってはかなりマシになるから、無駄にはしないんだ。これがビクキアテグ村での<食肉の確保法>の一つではある。
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これを彼女はちゃんとわきまえてくれてるんだ。
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