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第三世代

灯編 人のお子さんが見せる反応

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新暦〇〇三五年五月二十二日



かように、とにかくケイン達の<生物としての傾向>が見え始めてくるまでは、セシリアに任せる。

しかし、その影響は早々に現れてきた。セシリアやビアンカの顔をすごくよく見るようになってきたんだ。これは、地球人の赤ん坊にもみられる姿だ。自分の目の前にいるそれが自分にとってどういう存在であるかを見極めようとしているとも言われている。

その様子が見えてくれば、後はそれこそ<人間としての在り方>を徹底的に示していくだけだ。ケイン達に学んでもらうために。

だが、忘れてはいけない。先にも触れたとおりこれは、『言葉を教えてもすぐにはしゃべれるようにならない』のと同じだからな。すぐに結果が出ないからといって『無駄だ!』とか『どうせ獣と同じで言っても分からない』と決め付けるのは早計に過ぎる。赤ん坊が目で見て耳で聞いて肌で触れて感じ取った情報を整理し自分の中に落とし込んでいくには時間が掛かるんだ。

けれど、人間なら徒労のようにも感じられてしまうことさえ苦も無くこなせるロボットには、造作もないことだった。ビアンカもそんなセシリアに倣い、不安も感じつつも根気強く、

「こんにちは、ケイン、イザベラ、キャサリン♡」

と、穏やかに笑顔で声を掛け続けた。

すると十日ほどで、落ち着いた様子でセシリアやビアンカのことを見るようになっていったんだ。

「ケイン様、イザベラ様、キャサリン様のご様子を詳細に分析した結果、間違いなく人のお子さんが見せる反応であることが確認できました。お三人はすでに私とビアンカ様を<親>ないし<仲間>と認識しています。そして私とビアンカ様の振る舞いから学び、自身の行動を律しはじめていると推測されます」

セシリアがそう断言してくれるくらいには。

「やったじゃん! ビアンカ!!」

あかりがビアンカの体に触れながら声を上げる。

「うん…うん……ありがとう、あかり……!」

ビアンカは両手で顔を覆って涙ぐんでいた。これはそれこそ、<母親としての感覚>そのものなんだろうな。我が子がちゃんと人間らしい振る舞いができるようになってくれる可能性が出てきたことで、気が緩んでしまったんだろう。

久利生くりうも、授乳を終えて寝ている黎明れいあを抱いて、うんうんと頷いていた。ルコアも、

「よかったね……よかったね……!」

目を潤ませながらビアンカに縋りついている。

たった十日間ではあったものの、ビアンカにとってはそれこそ不安に押し潰されそうな日々だったと思う。

本当によかったよ。

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