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第三世代

灯編 人間としての感覚

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新暦〇〇三五年五月十日



ケイン達が孵化して五日。その間、意外なほど平穏だった。イザベラとキャサリンは、ビアンカが保育器に投入してくれる生きた土竜モグラを素早く捕獲して血塗れになりながらバリバリと食うし、ケインは生肉が差し込まれると奪い取って食べた。

三人とも非常に元気で、力強い。みるみる大きくなっていくイザベラとキャサリンは元より、ケインも、<ヒト蜘蛛アラクネ>としてはいささか頼りないにしても<アラニーズ>として生きていくには十分な力を持っていると実感できた。

「よかった……」

黎明れいあに乳をやりながらタブレット越しにケイン達の様子を見ていたビアンカが安堵する。その横で、

「やるじゃん」

あかりは嬉しそうに呟いた。彼女にとっては、ケイン達が見せる生命力こそが評価対象なんだって分かる。

『人間として生きられるかどうか』

は二の次なんだ。人間として生きられなくても、野生の中で生き延びられる力があるならそれに任せればいい。だから、もし、ケイン……はまあ別としても、イザベラとキャサリンがもしヒト蜘蛛アラクネとして生きていくならと考えて、ばんがいた地域に移す場合についてのシミュレーションも始める。

俺の子供達についての対処と同じで、なるべく干渉は避けつつも、命だけは守る形にしようと思う。もし危機に曝された時にはドローンやドーベルマンMPMの援護によって生き延びられるようにな。

これも<親のエゴ>だ。今さらそれを正当化するつもりもない。しかし、敢えてそのエゴを貫かせてもらう。こちらの手が届くうちはな。

しかし、まずは人間としての感覚を身に付けてもらう努力が先だな。

それについては、セシリアに一任する。ケイン達を<人間>として扱ってもらうんだ。普通の人間がケイン達に接するのは危険であるものの、メイトギアであるセシリアが、ケイン達に後れを取ることはない。エレクシア達<要人警護仕様>のメイトギアに比べれば戦闘力はないに等しくても、獣にとっては食えるところもないし、そもそも大型犬程度までが相手なら勝てるだけの力はある。

日常の中に潜むリスクとしては十分に有り得ることだからな。『犬に襲われる』とかくらいなら。

銃やナイフを持った人間相手でも、訓練を受けてない素人くらいであれば実は勝てるそうだ。ロボットだから、

『原則、人間は傷付けられない』

というだけで。ゆえに、主人が暴漢に襲われたりしても、自分が盾になって守り、警察などが駆け付けるまでの時間を稼ぐって形だな。

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