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第三世代

灯編 自家受精

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新暦〇〇三五年二月八日



ビアンカの、<アラニーズとしての本体>に卵が。

地球人ならここで、

『誰の子だ!?』

って話になるだろうが、ビアンカの場合は、それは有り得ない。何しろ彼女は、現時点で確認されている唯一のアラニーズ。遺伝子そのものはヒト蜘蛛アラクネとほとんど同じなものの、彼女がヒト蜘蛛アラクネと接触したという事実はない。生殖行為など、どう足掻いたってできやしない。

ヒト蜘蛛アラクネは、雄が雌に精莢せいきょうという、精子を生じさせるカプセルのようなものを受け渡すことで生殖を行う。そしてその精莢せいきょうは、数年に亘って雌の体内に残り、雌の排卵と同時に精子を放出して受精させるという仕組みなんだ。

が、今回、コーネリアス号に赴いて詳細に検査したが、ビアンカの体内には精莢せいきょうなど影も形もなかった。

それを受けてシモーヌは、

「<自家受精>ってことかもしれない……」

と見解を示した。その上で、

「もっとも、地球の生物で言う<自家受精>というのは、雌雄同体の生物によっておこるもので、雄としての生殖器官が生じさせた生殖細胞と雌としての生殖器官が生じさせた生殖細胞が結合し、受精することを言うの。植物では当たり前のように見られることだけど、動物ではごく限られた事例でしか見られないし、あくまで雌雄同体の一個体で、ということだから、生物学的には<雌>であるビアンカにそれが生じる可能性は、地球上の生物の常識ではまず起こりえないこと。

でも、ここは地球じゃないし、ビアンカはあの不定形生物由来の個体だから、地球の生物の常識なんて通用しなくても当然か。

それにこれで、あの不定形生物由来で生じた動物が繁殖できた理由が説明できる可能性が増えたと思う」

とも。それに対して俺は、

「と言うと?」

と尋ねる。

「自家受精で生殖できるのなら、数を増やす可能性がそれだけ増すってこと。あらたりんほむらさいの事例でも分かる通り、違う種同士だと受精の可能性は極端に低くなる。となれば、遺伝子が極めて近い複数の個体が発生する必要があるけれど、それさえ、がく夷嶽いがくみずちと去年現れたヒト蛇ラミアくらいしかその事例は確認できていない。

けれど、自家受精で生殖できるとなれば、それだけ個体も増やせるからね」

そんなシモーヌの説明に、

「でも、それだと、ただのクローンってことにならない?」

ひかりが発言。するとシモーヌは言ったんだ。

「アラニーズのビアンカが、<人間のようにも見える部分>で久利生くりうの子供を妊娠できたように、不定形世物由来の動物には、複数の遺伝子が備わってる可能性が高い。それこそ、生殖巣ごとに別の遺伝子を持っててもおかしくないくらいには」

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