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第三世代

ビアンカ編 矛盾を抱えた現象

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新暦〇〇三四年二月十九日



結局、一晩掛けてきたるを送った俺達は、その日は、昼まで眠った。

そしていつもは陽気なあかりも、今日はさすがにそんな気分にはなれなかったようだ。

ひかりと同じで、地球人のように分かりやすく悲しみを表現したりはしないが、彼女にとってはきたるはそれこそ<家族>だったからな。

久利生くりうという<優秀な雄>を共有する』

という形で。

そう。動物としての当然の本能として、

『優秀な雄を複数の雌が共有することで、優秀な遺伝子を受け継ぐ個体こそを多く残そうとする』

という欲求を具現化したのが、<ハーレム>というものだ。人間(地球人)の男はその辺りを勘違いしてるが、これはむしろ、<雌の側の戦略>であり、<種>というものを考えればむしろ当然の形態なんだろう。<群れ>という形を取らない種でも、雄が複数の雌との間に子を成したりするのも結局はそういうことだしな。

ただ、地球人の場合は、心や感情というものを発達させた結果、<独占欲>や<嫉妬>が非常に強くなったこともあり、そういう感情を蔑ろにするのも具合が悪いので、多くの場合は一対一の婚姻関係をとるのが主流になったらしいが。

決して雄(=男)にとってばかり都合のいいものじゃないんだ。<ハーレム>ってのは。

だってそうだろう? 『優秀な男性を複数の女性で共有する』ってことになると、女性に相手にしてもらえない男性がそれだけ増えるじゃないか。女性の方が圧倒的に数が多いならまだしも、地球人の男女比は限りなく一対一に近いしな。

まあそれも、生涯非婚率や同性婚の割合が非常に高くなった現在では、あんまり意味がないらしいが。

なんてことはさて置いて、昼過ぎには目を覚ました俺達も、なんとも言えない虚脱感の中にいた気はするな。いて当たり前だった者がいなくなるというのは、本当に空虚な気分にさせられる。

きたる……お前の存在も、ちゃんと俺達の一部だったんだよ。それが喪われたから、こんな気分にもなるんだ。

つくづく、<生きる>ってのはとんでもない矛盾を抱えた現象だよな。なにしろ、最後は必ず死ぬために生きるわけで。

さすがの未来みらいも、今日は、<力比べ>をする気分じゃないらしい。母親が眠る池に体を浮かべて、ぼんやりしている。

池の底の土中に埋められたきたるの遺体が微生物により分解されて腐敗して細菌が増えたとしても、クロコディアにとってはまったく問題はない。そういう環境に完全に適応した体を持っているからな。

久利生くりうは、起きて食事を済ませてから池に参った後、鍛冶の仕事を始めた。

「体を動かしている方が気がまぎれるからね……」

そう言った彼の表情も、どこか寂しそうだった。ビアンカとあかりは、ルコアの傍に寄り添って、未来みらいの姿が見える辺りで一緒に畑仕事をした。

「……」

そして夕方、ビアンカは、やはりドーベルマンMPMを従えて、素戔嗚すさのおが潜んでいる辺りへと向かったのだった。

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