上 下
1,228 / 2,387
第三世代

モニカとハートマン編 ディストピア

しおりを挟む
新暦〇〇三四年一月二十五日



これでまあ、牙斬がざんの方は片付いたとして、ルコアの方も、容体は安定したものの、丸五日間、眠り続けることになった。

しかも、少し気になる<変化>が。

と言うのも、彼女の傷口が、<例の鱗>で覆われたんだ。みずちがく夷嶽いがく牙斬がざんのそれと同じ、<タングステン並みの強度を持つ鱗>にな。

重大な怪我を負ったことで、彼女の体が自己防衛のために自らを強化しようとしたのかもしれない。

「……」

五日後、目が覚めた彼女は、自分の腹に生えた鱗に気付き、なんとも言えない表情をしたそうだ。それからぽろぽろと涙をこぼし、ベッドにうずくまってしまったと。

自分がこのままさらに怪物のようになっていくのかと不安になったらしい。

しかしそれについては、傷が完全にふさがると、まるで瘡蓋かさぶたがはがれるように抜け落ちたとのことで、

「よかった……」

と、ルコアだけじゃなくビアンカもホッとしたとのことだった。

その間、ビアンカとモニカがずっと彼女に寄り添い、支えた。

ビアンカもそうだが、モニカも本当に献身的に支えてくれた。いや、ロボットだから不眠不休で働けて当然なんだが、その振る舞いや仕草に人間味が増したからか、余計に頑張ってくれてるように見えるんだ。

「モニカも、ありがとうな」

俺がそう言うと、

「いえ、私はルコア様が好きなんです。ルコア様のお役に立つことが私の望みです」

と、やけに人間臭い返答を。メイトギアなどでも、主人によってはこんな感じの受け答えをするようになるそうだが、ルコアとビアンカの傍にいたことでこうなったのか。

結局、二人の人間性や関係性が反映されているということだろう。

柔らかくて、あたたかくて、穏やかな。

プライベートにあまり踏み込むわけにはいかないからあくまで外から眺めてるだけの俺には、分からない部分もありそうだ。

でも、それでいい。俺が一から十まで管理するわけにはいかないからな。そんなことをすればそれこそ<ディストピア>になってしまう。

人間(地球人)の社会も、一部からは、

『人間を家畜のように管理するディストピアだ!』

と揶揄されていたりもするらしいが、いやいや、AIやロボットは別に人間を<監視>してないぞ。人間そのものを監視するんじゃなくて、あくまで、

<社会にとってリスクになる行為>

を検出し、行政に通告しているに過ぎない。そうじゃなければ干渉もしない。人間のように『恣意的に運用する』という概念をそもそも持たないんだ。

気にしすぎなんだよ。

自分がいろいろとそういうのを考えなきゃいけない立場になったからこそ、それが分かるようになったかな。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

精霊のお仕事

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:123

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,946pt お気に入り:4,655

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21,045pt お気に入り:6,018

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,151pt お気に入り:281

追放の破戒僧は女難から逃げられない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:555pt お気に入り:167

冒険がしたい創造スキル持ちの転生者

Gai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,131pt お気に入り:9,008

異世界転移で生産と魔法チートで誰にも縛られず自由に暮らします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:2,451

処理中です...