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第三世代

モニカとハートマン編 普通のルプシアン

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新暦〇〇三四年一月十四日



しかし、いずれにせよ、エレクシアを破壊できてしまうような存在が生まれてしまった以上、今後は、

『なんだかんだ言っても彼女がいれば大丈夫』

とはいかなくなったと思う。また新たな<怪物>が生まれれば、いよいよ手に負えなくなっていく可能性も高い。

なので、牙斬がざんには、ぜひ、普通に寿命を全うしてもらいたい。

本当ならば和解して穏当に<隣人>として住み分けていきたいが、きょうみずちがくもそうだったし、牙斬がざん自身を見てても和解できる相手じゃないというのは実感する。

となれば、近付かせないようにするしかない。

こうして、三十時間を要して二千キロを移動。ビクキアテグ村がある辺りとよく似た草原にワイバーン三型は着陸し、牙斬がざんを乗せた担架を下した。そして随伴したドーベルマンMPM二機が拘束を解いて、草むらに下ろす。

麻酔が切れる前に改めて容体を確認。安定してることを確かめて、そのまま、ギリギリまで付き添った。

なお、尺骨を射出した右腕の傷はこの時点でもう出血は完全に収まっていたようだ。なんという回復力。しかし、だからこそ生き延びてくれるだろうという予感はある。

希望的推測に過ぎないが、『人間と戦って死ぬ』という形でなければ、さらに強いのが生まれるわけじゃない。と、思う。そうでなければ、これまでだって同じような形で生まれた個体は無数にあったはずにも拘らず俺達が最初に遭遇した<きょう>程度で済んでいた理由が分からないしな。

まあ、なんにせよ、十キロばかり離れてる程度で、匂いが届くまでは人間の存在に気付かなかったくらいだから、二千キロも離れればさすがに大丈夫だろう。



一方、エレクシアの<義手>だが、破損した彼女の左前腕部分を構成していた<筋繊維アクチュエータ>と呼ばれる、電気刺激と化学反応で伸縮する太さ十分の一ミリの樹脂製の繊維を束ね、見た目には<銀色の筋肉の模型>にも見えるそれの無事だったものを再利用したことで、イレーネ用の義手よりは高出力を得ることができた。以前にも言ったと思うが、<筋繊維アクチュエータ>はそれ自体が一個の完結したロボットであり、故障さえしていなければ問題なく機能する。

とは言え、義手を構成する素材そのものが要人警護仕様のメイトギアのそれには及ばない強度しかなく、ゆえに、最大出力が本来の腕の十パーセントに抑えられているんだ。強度さえ十分なら、七十パーセントまでは出せるらしいが。



ともあれ、拘束を解いてからさらに十時間後、麻酔が切れた牙斬がざんは、煤けてすっかり黒くなった体を起こし周囲を見渡し、匂いを嗅ぎ、人間の気配がまったくしなかったからか普通のルプシアンと変わらない様子で、ただ草原に佇んでいたのが、カメラを最大望遠にして上空から監視していた母艦ドローンによって捉えられたのだった。

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