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第三世代
モニカとハートマン編 生き延びるための能力
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これまでまったく引き下がることを知らなかった牙斬が、脇目も振らず逃げ去っていく。どうやら、ここまでの攻撃に加えてのそれにさすがの牙斬にも多少のダメージはあったらしく、凄まじい速度で奔った。
「退いた…のか…?」
俺の声に、
「おそらくは……だが一時的なものだろう。ダメージコントロールとして間合いを取ったにすぎないと思う。自身のダメージの程度を確認すればまたすぐ侵攻を再開するだろうな」
床の上に立てられたタブレットの画面を見ながら、久利生は冷静に応える。
しかし、彼にとってはその<一時>が何よりだった。敢えて追わない。今の久利生達が必要としているのはあくまで<時間>だ。時間が稼げればそれでいい。
牙斬が探知圏外に去ったことを確認し、久利生は、ルコアの手術に意識を集中させた。彼の手が止まっている間はモニカが手術を行ってくれてたとはいえ、同時進行する必要があったことで久利生の手も必須だったんだ。
そんな彼の手さばきは、見事の一言だった。損傷した血管が見る見る繋がれていく。ルコアの体はすべて透明なので、普通に見ているだけだと血管も何も区別がつかないため、処理した映像を映し出すゴーグルを通して見ながらの手術にも拘らず、まったくそれを感じさせない。もちろん、ルコアやビアンカや久利生自身のような<透明な体>を持った相手を手術することも想定してシミュレーションを行ってきたのはあるとしてもだ。
だが、この時、驚かされたのは久利生の腕だけじゃなかった。
「これだけの出血がありながら、血圧が下がらない……?」
彼がそう呟いたように、モニカが検出していたルコアのバイタルが、これだけの重傷にも拘らず、極端に変化していなかったんだ。特に、大量出血によって多くの血液が失われているはずが、血圧も血流も大きく下がっていない。
まるで、大量出血などなかったかのように……
それについて、ルコアの全身をモニターしていたモニカが告げる。
「サーペンティアンとしての能力が、ルコア様を守っているようです」
「どういうことだ?」
すぐにはピンと来なかった俺の問い掛けに、
「サーペンティアンは、肉体に深刻なダメージを受けると、重要な臓器等を守るために、腰から下への血流を抑制することが分かっています。今回、それが機能しているのです」
手術の手はまったく止めることなく、彼女は淡々と応えてみせた。
「ああ……!」
ここでようやく俺もそれを思い出し、腑に落ちる。
つまりサーペンティアンは、自身の体に、緊急用の血液のストックを確保しているようなものか。
これは、現時点で確認されている他の獣人達にはほとんど見られない特長だった。アラニーズであるビアンカはそれに近い能力を備えているものの、サーペンティアンほどじゃない。
何しろ、ルコアの全長七メートルのうち、六メートル近くが<血液タンク>の役目をしているわけだからな。
もちろん、壊死しないために最低限の血流は残されるんだろうが、それでも、腰から下を休眠状態にすれば、腰から上を生かすには十分すぎるほどの血液が確保できるということだ。
「退いた…のか…?」
俺の声に、
「おそらくは……だが一時的なものだろう。ダメージコントロールとして間合いを取ったにすぎないと思う。自身のダメージの程度を確認すればまたすぐ侵攻を再開するだろうな」
床の上に立てられたタブレットの画面を見ながら、久利生は冷静に応える。
しかし、彼にとってはその<一時>が何よりだった。敢えて追わない。今の久利生達が必要としているのはあくまで<時間>だ。時間が稼げればそれでいい。
牙斬が探知圏外に去ったことを確認し、久利生は、ルコアの手術に意識を集中させた。彼の手が止まっている間はモニカが手術を行ってくれてたとはいえ、同時進行する必要があったことで久利生の手も必須だったんだ。
そんな彼の手さばきは、見事の一言だった。損傷した血管が見る見る繋がれていく。ルコアの体はすべて透明なので、普通に見ているだけだと血管も何も区別がつかないため、処理した映像を映し出すゴーグルを通して見ながらの手術にも拘らず、まったくそれを感じさせない。もちろん、ルコアやビアンカや久利生自身のような<透明な体>を持った相手を手術することも想定してシミュレーションを行ってきたのはあるとしてもだ。
だが、この時、驚かされたのは久利生の腕だけじゃなかった。
「これだけの出血がありながら、血圧が下がらない……?」
彼がそう呟いたように、モニカが検出していたルコアのバイタルが、これだけの重傷にも拘らず、極端に変化していなかったんだ。特に、大量出血によって多くの血液が失われているはずが、血圧も血流も大きく下がっていない。
まるで、大量出血などなかったかのように……
それについて、ルコアの全身をモニターしていたモニカが告げる。
「サーペンティアンとしての能力が、ルコア様を守っているようです」
「どういうことだ?」
すぐにはピンと来なかった俺の問い掛けに、
「サーペンティアンは、肉体に深刻なダメージを受けると、重要な臓器等を守るために、腰から下への血流を抑制することが分かっています。今回、それが機能しているのです」
手術の手はまったく止めることなく、彼女は淡々と応えてみせた。
「ああ……!」
ここでようやく俺もそれを思い出し、腑に落ちる。
つまりサーペンティアンは、自身の体に、緊急用の血液のストックを確保しているようなものか。
これは、現時点で確認されている他の獣人達にはほとんど見られない特長だった。アラニーズであるビアンカはそれに近い能力を備えているものの、サーペンティアンほどじゃない。
何しろ、ルコアの全長七メートルのうち、六メートル近くが<血液タンク>の役目をしているわけだからな。
もちろん、壊死しないために最低限の血流は残されるんだろうが、それでも、腰から下を休眠状態にすれば、腰から上を生かすには十分すぎるほどの血液が確保できるということだ。
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