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第三世代

麗編 悪の概念に溺れた者

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新暦〇〇三三年十二月二十日。



こうしてあんずとますらおによる集落建設が順調に進む中、うららはますますあらたにべったりになっていった。明らかに体を擦り付けてアピールしてるのが分かる。

なんか、うららあらたの辺りだけ、ピンク色のベールがかかってる気がするぞ。

なのに、当のあらたは平然としたものだ。りんとはあれほど人目もはばからずイチャイチャしていたというのに、まるで別人だな。

が、考えてみればりんに対してそうだっただけで、実はあらた自身はむしろ淡白な方なんだろう。なにしろ、りんと別れてからというもの、他の雌には目もくれなかったのも事実だし。

あらたは、結局、そうなんだよ。あいつはどこまでも、

りんが好きだった』

だけなんだ。

まあ、そのりんの方は、ゆうというパートナーを見付けて上手くやってるから、余計にあらたが<可哀想な感じ>になっちゃってるかもしれないが、これは違うからな。そうじゃないからな。りんがむしろ<普通>なんだ。あらたがちょっと違ってるだけなんだよ。

でも、その『違ってる』こと自体についても、俺は<異常>だとは言いたくない。

『自分と違ってる』ことを理由に他人を蔑んだり見下したりするのを俺は認めたいとは思わない。それがどれほどの<事件>や<被害>をもたらしたかを考えれば、認めるわけにはいかないんだ。

『自分と違ってるからイジメる』

『自分と違ってるから疎外する』

『自分と違ってるから排除する』

そんなことをしていたら人間社会はスムーズに機能しない。

『異物さえ排除したら上手くいく』

なんてのは、極めて限定的な局所的な一面的な事象に過ぎないんだ。イジメて疎外して排除してとしてたら、それは大きな軋轢となって社会を不安定化させる。

何度も言うことだが、イジメられ疎外され排除される側だっておとなしくそれに従ってくるわけがないじゃないか。イジメられてる側がおとなしくしてたらそれこそつけあがってますます調子に乗るタイプが、<イジメ>なんてものますますエスカレートさせるんだろうしな。

そう、

『相手が下手したてに出たらつけあがる』のは、まさに、

<イジメを容認し正当化しようとする連中>

なんじゃないのか?

自分がそうだから、『下手したてに出たら相手はつけあげる』と思うんじゃないのか?

『人間の本質は悪だ!』

とか言う奴がいる。

だが、ここで三十年以上暮らして、俺は実感したよ。

『生物には、本来、<善>も<悪>もない』

とな。

『ただ生きる』

それに<善>だの<悪>だの関係あるか。

<善>だの<悪>だのいうのは、人間が自分に都合の良いもの悪いものを分類するために勝手に作り上げた<虚構の概念>だ。それを真に受けて自己暗示に掛かってるだけでしかない。

<悪の概念に溺れた者>

が、悪に染まるんだ。

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