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第三世代

メイガス編 決断

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新暦〇〇三三年十一月四日。



そして、メイガスがここに来てから一ヶ月。

池に体を浮かべ、ラケシスが好きに乳を飲むのに任せていたメイガスが、言った。

「私は、河に帰るよ……」

突然のようにも見えて、正直、俺にはもう時間の問題と思えていた<決断の時>が訪れたということだ。

タブレットに映るルコアを見ている彼女の目が、とても穏やかだったんだ。

子供が心配とか、傍についていてやりたいとか、そういう感じじゃなかった。

<離れて暮らす孫の姿を画面越しに見ている祖母の目>

的な安心感も含んだ目だったように俺には見えた。

『自分が傍にいなくて大丈夫』

と判断した目とも言えるか。

なにしろ彼女は、何度も言うように、<ルコアを生んだメイガス>じゃない。

それを裏付けるように、彼女は言った。

「正直、ルコアがクロトそっくりだったことで気持ちは揺れたよ。でも、こうして見てるとさ、やっぱりルコアはクロトじゃないんだ。仕草とか表情とかが、微妙に違うんだよ。同じ両親から生まれた姉妹でも性格が違ってくるように、ルコアとクロトも違ってるってのが見てると分かる。

私は……<ルコアの母親>じゃない。私の記憶の中にルコアはいないんだ……

そんな私がルコアの母親になるというのは、どうなんだろうな……

もちろん、自分が生んだ子でなくても母親になれることはあると思う。自分が生んだ子じゃないと絶対に母親にはなれないなんて言いたいわけじゃない。けど、だからこそ、ルコアにとっての<母親>はもう、ビアンカなんだと思う。

私の出る幕じゃ、ないよ……」

そう告げた上で、

「それに、私はもう、クロコディアと番ってラケシスも生んだ。そんな女に今さら母親面されても、せっかくルコアも落ち着いてんのに、また心を掻き乱すことになると思うしさ」

とも。

確かに。それは俺も懸念していたことだ。

『そういうことがあっても母と子の絆は壊れない』

なんて、フィクションでは盛り上がる話かもしれないが、じっくりとルコアやメイガスのことを傍で見てきた素直な印象として、二人の間に<母と子の絆>みたいなもの自体が結ばれてる気がしなかったんだ。

ルコアが彼女を<母親>として涙ながらに抱き付く姿が想像できなかったと言うか……

遺伝子上は親子関係を示すデータが出るとしても、やっぱり違う。

だから俺も、

「そうか……残念だが、メイガスがそう判断するなら、それを尊重しよう」

きっぱりとそう応えさせてもらった。

イヤホンで俺とメイガスの会話を聞いていたビアンカも、

「分かった。私もメイガスの判断を尊重する」

と言ってくれた。

シモーヌも、ひかりも、あかりも、久利生くりうも、証人となってくれた。

こうしてメイガスは、改めて、クロコディアとして生きることを決めたんだ。

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