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第三世代

メイガス編 法体系

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新暦〇〇三〇年十月六日。



俺としてもしっかりと覚悟を決めてるからこそ鷹揚に構えてる上に、メイガスも、ただ淡々とラケシスの育児をしながら、しち号機が掲げるタブレットに映し出されるルコアの姿をしっかりと見届けていた。

ルコアは、もうすっかりビアンカに懐き、彼女を母親のように慕っている様子がよく分かる。

それでも、時折、一人になると、部屋の隅に蹲って涙をこぼしている時があるのも事実。まだまだ完全には今の自分の置かれている状況を受け止めきれず感情的になってしまうようだ。

ただ、ビアンカの前ではなるべくそれを見せようとしないというのも感じ取れる。ビアンカに心配させまいとして気遣っているんだ。

その気遣いを敢えて受け入れ、ビアンカも気付いていないふりをする。ふりをしつつ、ルコアを抱き締め、一緒に風呂に入り、一緒に寝て、彼女を労わる。

そうすることで、今、自分がいる場所が安全で安心できるところだというのを、皮膚感覚で理解していってもらう。

一朝一夕ではいかない。口先だけで『大丈夫』と言って終わった気にならない。こういうのは、簡単なことじゃないんだ。

こちらの思惑通りにはいかないのが普通なんだ。

急がず、焦らず、淡々と<その時>を待つ。ルコア自身が、

『自分はもう大丈夫』

と素直に思えるようになるまで。

同時に、ここの環境にも慣れていってもらわなきゃいけないから、週に一度の割合で、ビアンカと共にビクキアテグ村を訪問。あかり久利生くりうの歓待を受ける。

とは言っても、あかり久利生くりうも押し付けがましいことはしない。ただ穏やかにルコアを迎えて、一緒に食事をしたり、ボードゲームをしたりするだけだ。ちなみにそのボードゲームも、コーネリアス号の乗員の私物を借り受けたものだったりする。なので、<秋嶋あきしまシモーヌの絵本>のように、本来の持ち主の記憶を引き継いだのが現れたら、返す予定だ。

法的に見ればもう所有権は消滅しているはずだし、そもそも<不定形生物由来の透明な体>を持ってこの世界に現れた場合は『人間とは見做されない』から、当然、<持ち主本人>とも見做されないはずなので所有権そのものを主張できないのは事実でも、さすがに本人に向かって、

『あなたはもう死んでるし、いくら記憶を持ってても<本人>じゃないから所有権を主張する権利もない』

などと突っぱねるのも忍びない。人間(地球人)の法では確かにそうでも、ここにはまだその<法>はない。現時点ではあくまで俺が最終的に判断する、<人治体制>であることも事実。なら、当面の間は、可能な限り<臨機応変>にいきたい。

いずれ<法>を整備することになるとしても、シモーヌやビアンカや久利生くりうやメイガスのような事例はきっとこれからもあるはずだから、それを考慮に入れた法体系が必要になるだろうな。

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