上 下
1,058 / 2,554
第三世代

メイガス編 母親

しおりを挟む
クロコディアである今のメイガスにはシモーヌの姿もアルビノ的に見えるそうだ。ただ、少なくとも自分もシモーヌと同じだというのは理解できただろう。

「頭はすごく混乱してるけど、その一方で、なんかいろいろ腑に落ちた気はするよ。二千二百年も経ってたこととか、私が今の自分を受け入れようとしたのは、結果的に正解だったんだな……

もし、コーネリアス号に帰ろうとしてたって、正直、無駄だったってことだし……」

しち号機と拾弐じゅうに号機が作った<席>に座ってこちらに向かいながら、メイガスは呟くように口にした。

俺達も、敢えてそれ以上はあれこれ言わない。彼女自身が必要だと思えば自ら問い掛けてきてくれるだろうと思ったしな。

実際、メイガスは、自分の中に湧き上がってくる様々な感情などを整理するために、黙っていたようだ。

寂しげに視線を伏せた彼女の姿が、この時の彼女の気持ちを雄弁に物語ってくれた気もする。

『たとえこうして<人間>と関わり合うことになったとしても、もうそこは<自分の生きていた世界>ではないということを悲しいと感じると同時に、だからこそすべてを割り切れそうにも思える』

というのをな。

何しろ、メイガス自身が後でそう語ってくれたし。

いずれにせよ、彼女にとっても『賽は投げられた』ということだろう。後は、俺達が彼女をいかに受け止めるかってことにかかっているんだろうな。



そうして三十分ほどかかって、メイガスは俺達の集落へとやってきた。

「いろいろ積もる話もあるだろうが、まずはうちの治療カプセルに入って回復をはかってもらいたい。話さなきゃいけないことは本当に山ほどあって、そのためにも体を休めてほしいんだ」

「分かった。お言葉に甘えるよ」

挨拶もそこそこに、俺は出産直後で本来ならゆっくりと体を休めたかったであろう彼女にそう告げた。

彼女としても、さすがにダメージは感じてたらしいから、セシリアに抱えられて光莉ひかり号の治療カプセルに入ってもらう。

なお、細菌やらなにやらについては、赤ん坊本人もそうだし赤ん坊の体に付いていたメイガスの体組織を先に分析させてもらって問題ないことを確認してある。

あと、

「赤ん坊のための搾乳をお願いしたいんだけど、大丈夫?」

落としたファンデーションを塗り直したシモーヌが、メイガスに問い掛ける。

「ああ…でも、初乳は自分でやりたいな」

とメイガスが応えたから、カプセルに入る前にベッドに座って赤ん坊を抱いて、自分の乳を含ませた。

その時の表情は、まさに<母親>そのものだっただろうな。

「ラケシス……」

一言そう呟いたのが赤ん坊の名前だということは、俺達にもすぐに察せられたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...