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第三世代

当編 得難い経験

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新暦〇〇三三年三月二十三日。



なお、ルコアのトイレについては、専用のそれができるまでの間は、隔離室に設けられている普通の人間用のトイレを使ってもらってた。

ただ、彼女の場合、<排泄口>が体の前についているので、『座って』用を足すことができない。仕方なく彼女は、本来なら背中側に来るはずの壁に体を預けるようにして、かなり無理矢理な姿勢で使う羽目になっていたんだ。

しかも、トイレに体が入りきらないので、ドアも開けっ放し、体の半分以上がトイレの外にある状態で。

まあ、トイレについては、<向こう>にいた時にも、気の利いた水洗式などではなく、小さな川の上に小屋を設置して、その床に開けた穴から直接川に排尿・排便するという形だったそうだ。

だから、少々無理があっても綺麗なトイレだったから、案外、嫌じゃなかったらしい。

むしろ、綺麗過ぎて最初は本当にここで用を足していいのかと遠慮してしまったんだとか。

で、それはよかったものの、やはり異形の体に生まれついてしまったショックは大きかったらしく、ルコアの精神状態は必ずしも『安定してる』とは言い難い状態だった。

これに対しては、彼女は絵を描くのが好きだったそうなので、髪とペンを与えて、とにかく好きに描いてもらったそうだ。

すると、両親らしい男女の絵を描くとボロボロと涙をこぼし始めて、三十分ほど嗚咽が止まらなかったり……

それかと思うと、食事中でもやっぱり泣き出したり……

無理もないよな。むしろ、フィクションのようにすぐに自分の状態を受け入れられるようになる方が普通じゃないんだ。



一方、<あたるの嫁(仮)>については、その後、これという変化はなかった。あたるとの仲も良くて、いい感じだったと思う。

だからどちらかと言うとルコアに注力する形になってた。

結局、当面の間、設備が整ってるコーネリアス号にビアンカと共に留まってもらってケアを続けることになり、セシリアを週に二回、派遣して、モニカにルコアとの接し方をレクチャーしてもらったりもした。

精神的に不安定になっている人間は、接し方に非常に神経を使うことになる。

ロボットの場合は<神経>というわけじゃないが、人間の感情を逆撫ですることのないように緻密で繊細な制御を行うんだ。そのために必要なノウハウを、実地で伝授してくれる。

それがこれからはさらに必要になってくるだろう。それに備えてだ。

その意味でも、ルコアの事例は得難い経験になると思う。

もちろん、彼女を実験動物のように扱うつもりはない。そうじゃない接し方を模索するためにということだ。

俺達は、まったく前例のないことを、少なくともエレクシアにも光莉ひかり号のAIにもコーネリアス号のAIにもデータのないことをやろうとしているんだ。

軽く考えることはできないさ。

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