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第三世代

ルコア編 複数のパターン

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『君の来訪を歓迎するよ。お姫様』

自分なりに精一杯の穏やかな笑顔で挨拶したつもりだったが、少女の方は明らかに怯えた様子だった。

いかん、<おっさんの笑顔>は地雷だったか……?

そう思ったが、まあ、<責任者>としては挨拶しないわけにもいかないしな。第一印象はイマイチでも、これから時間を掛けて認めてもらえばいい。

そんなわけで、

「まあ、今はまだいろいろ不安だろう。ビアンカが当面は君の面倒を見てくれる。分からないことや不安があったら彼女に相談すればいい。その体についても、彼女は<先輩>だからな。

とにかく、俺達は君を歓迎する。君がそれを信じてくれるかどうかはともかくとして、まぎれもない事実だ。ここは、君達の世界なんだ」

きっぱりと告げさせてもらった。

どうやら彼女にはウケが良くなかったらしい俺は完全に裏方に回って、境遇が近くてどうやらすでに懐いてきてるビアンカに直接の対応は任せよう。

で、音声だけではあるものの、モニターさせてもらう。

風呂の中で自己紹介とかはすでに済んでたらしい。

それによって判明した少女の名前は、<ルコア>。

なんでも、かつて地球の<南米>辺りで信仰されていたという神、

<ケツアルコアトル>

にちなんでつけられたんだそうだ。彼女の母親である<メイガス・ドルセント>自身、<魔女>を意味する単語を由来とした名前を持つことも含めて、その種の神秘的な存在を由来とした名をつけるのが、母親の家系先祖代々の慣習らしい。

何の拘りなのかは俺にはよく分からんが、まあ、その辺りのことを嘲笑うつもりはないから敢えてスルーする。

あと、風呂の間に、少女の身の上についても、ある程度は聞き出せたのだという。

で、コーネリアス号乗員の<ディルア・ルバーン>が父親、<メイガス・ドルセント>が母親だというのも確定。

ただ、シモーヌやビアンカがいた<世界線>とは、やはり微妙に違っていたそうだ。

シモーヌとビアンカの話では、シモーヌの子の瑠衣るいの次に生まれた子が違うんだ。けれど、ルコアがいた<世界線>では、彼女が瑠衣るいに続いて生まれたとのこと。

「これで、複数のパターンのシミュレーションが行われていたことがほぼ間違いなくなったな……」

「そうね……」

「……」

俺とシモーヌが交わした言葉を、ビアンカはワイヤレスイヤホンで黙って聞いていた。

今さらそんなことにショックを受けるほどではないにせよ、複雑な気分なのは変わりないだろうな。あの不定形生物の中ではオリジナルと変わらずに存在していたと思っていたのが、実は何パターンにも分かれていたとなれば、無理もないんだろう。

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