1,025 / 2,554
第三世代
ルコア編 お姫様
しおりを挟む
そうやって俺達が話し合っているうちに、ビアンカは<サーペンティアンの少女>を風呂に入れてくれていた。
後で聞いた話だが、少女は、透明な上にまるでヘビのような自分の体を見て泣きそうな表情になっていたそうだ。
無理もない。むしろ平然としていられる方がおかしい。
透明なだけで基本的な部分は人間と変わらなかったシモーヌでさえ今の自分を受け入れるのにそれなりの時間を要したし、軍人だったビアンカでさえ、久利生に受け止めてもらえたことでようやく完全に今の自分を受け入れられたんだ。久利生は割と早々に受け入れていたようだが、これはむしろ例外だろう。彼の場合は逆に、『久利生家の嫡男<久利生遥偉>じゃなくなった』ことが救いだったらしいし。
だとすれば、少女が今の自分を受け入れられるようになるには、おそらく、『赤ん坊として今の体に生まれて育ってきた』というのに匹敵する時間と手間が必要だと思う。
そう。少女が十二歳くらいだとするなら、それこそ十年以上の時間がな。
『そんなに手間を掛けてられるか!』
という意見もあるかもしれないが、俺はそれには耳は貸さない。あの少女を保護する決定をしたのは俺だから、俺には、
『生まれてきて良かった』
と思わせてやらなきゃいけない責任が生じたと思ってる。その覚悟もなく子供なんて育てられるか。
こんな、<人間社会>も<文明>もない世界で、光や灯を送り出し、シモーヌを受け入れ、順を受け入れ、和を受け入れ、ビアンカを受け入れ、久利生を受け入れた俺にとっちゃ、それこそ、
『何を今さら』
って話だよ。
<生まれてくる命>
は、誰一人として、どのような生き物であれ、自分では生まれてくることを選べないんだ。
何の準備もなく、何の覚悟もなく、何の心構えもなく、ある日突然、この世界に放り出されるんだぞ?
普通は<赤ん坊>としてだからその理不尽さに気付くこともできないかもしれないが、考えてみたらとんでもない話だ。
なのに、シモーヌやビアンカや久利生は、それこそ、
『オリジナルの記憶と人格を有したままで<人間じゃないもの>としてこの世界に放り出された』
んだ。これがどういうことか、正直、俺にも分からない。俺は遭難してここに来たが、遭難するような無茶をしたのは俺自身の決断だからな。これはまぎれもないただの<自業自得>だ。理不尽でもなんでもない。
だから、何度でも言うが、サーペンティアンの少女についても、
『今の自分として生まれてきて良かった』
と思わせてやらなきゃな。
俺の対応の一つ一つが、今後この惑星に築かれるであろう人間社会の基になるんだ。
そうして俺は、
「初めまして。俺は神河内錬是。このコミュニティの責任者だ。君の来訪を歓迎するよ。お姫様」
タブレット越しではあるものの、精一杯の穏やかな笑顔で、少女に挨拶したのだった。
後で聞いた話だが、少女は、透明な上にまるでヘビのような自分の体を見て泣きそうな表情になっていたそうだ。
無理もない。むしろ平然としていられる方がおかしい。
透明なだけで基本的な部分は人間と変わらなかったシモーヌでさえ今の自分を受け入れるのにそれなりの時間を要したし、軍人だったビアンカでさえ、久利生に受け止めてもらえたことでようやく完全に今の自分を受け入れられたんだ。久利生は割と早々に受け入れていたようだが、これはむしろ例外だろう。彼の場合は逆に、『久利生家の嫡男<久利生遥偉>じゃなくなった』ことが救いだったらしいし。
だとすれば、少女が今の自分を受け入れられるようになるには、おそらく、『赤ん坊として今の体に生まれて育ってきた』というのに匹敵する時間と手間が必要だと思う。
そう。少女が十二歳くらいだとするなら、それこそ十年以上の時間がな。
『そんなに手間を掛けてられるか!』
という意見もあるかもしれないが、俺はそれには耳は貸さない。あの少女を保護する決定をしたのは俺だから、俺には、
『生まれてきて良かった』
と思わせてやらなきゃいけない責任が生じたと思ってる。その覚悟もなく子供なんて育てられるか。
こんな、<人間社会>も<文明>もない世界で、光や灯を送り出し、シモーヌを受け入れ、順を受け入れ、和を受け入れ、ビアンカを受け入れ、久利生を受け入れた俺にとっちゃ、それこそ、
『何を今さら』
って話だよ。
<生まれてくる命>
は、誰一人として、どのような生き物であれ、自分では生まれてくることを選べないんだ。
何の準備もなく、何の覚悟もなく、何の心構えもなく、ある日突然、この世界に放り出されるんだぞ?
普通は<赤ん坊>としてだからその理不尽さに気付くこともできないかもしれないが、考えてみたらとんでもない話だ。
なのに、シモーヌやビアンカや久利生は、それこそ、
『オリジナルの記憶と人格を有したままで<人間じゃないもの>としてこの世界に放り出された』
んだ。これがどういうことか、正直、俺にも分からない。俺は遭難してここに来たが、遭難するような無茶をしたのは俺自身の決断だからな。これはまぎれもないただの<自業自得>だ。理不尽でもなんでもない。
だから、何度でも言うが、サーペンティアンの少女についても、
『今の自分として生まれてきて良かった』
と思わせてやらなきゃな。
俺の対応の一つ一つが、今後この惑星に築かれるであろう人間社会の基になるんだ。
そうして俺は、
「初めまして。俺は神河内錬是。このコミュニティの責任者だ。君の来訪を歓迎するよ。お姫様」
タブレット越しではあるものの、精一杯の穏やかな笑顔で、少女に挨拶したのだった。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる