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第三世代

ルコア編 申し訳ないことを

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少女の髪を梳いたブラシを受け取ったグレイが、隔離室の一角に設けられた<分析器>の検体投入口の前に行き、ブラシに付いた少女の髪の毛を、本来は重作業用のゴツイ手で器用につまんで投入口の受け皿へと置いた。

抜けた髪の根元に細胞片でも付いていればそれで調べられるからな。

現在の彼女のDNAや、免疫の働き、持っている病原体等についてもほとんど分かる。

その間に、ビアンカは少女を風呂に入れることにした。

が、残念ながら<人間用の風呂>では、ビアンカはもちろん、今の少女でさえおそらく入れない。なにしろ、その全長は七メートルを優に超えていたし。

なので、隣の隔離室の<洗浄用プール>を使うことにする。

こちらは、大型の動物や、検体として収容した大型の物品を洗浄するためのプールだ。なので愛想もクソもないものではあるが、こればかりは仕方ない。軍人だったビアンカは野外でシャワーを浴びることも平気だが、この子は子供だしな。

しかし、少女に明らかな人間性があるのが分かった途端にこの対応だ。我ながら本当に現金だと思う。

「あの子には申し訳ないことをしたな……」

偏見に囚われて人間として扱うことに思い至らなかった自分が情けなくて……

そんな俺にシモーヌが言ってくれる。

「何を言ってるの。それは私やビアンカや久利生くりうも同じでしょ。私は学者だからってこともあってまずは観察することを優先してしまったし、ビアンカや久利生くりうは軍人だったから慎重になってた。あかりは、まあ、元々私達地球人とはメンタリティが違うからね。それでもちょっと見方を変えれば早々に『保護しなくちゃ』って思えてたところを、あなたに判断を丸投げして様子を見てたんだから、私達にも責任はある。

それに何より、あなたの立場じゃ慎重にならないといけない。加えて、今、あなたは<守るべきもの>と<割り切るべきもの>の線引きをしてるところでしょ? 自分の<曾孫>から先は見守るだけって自分に言い聞かせてる最中。それを思えば、完全に見ず知らずの赤の他人だったあの少女の保護を優先できなくても当然だと思うけど?」

言い含めるように諭してくれる彼女の言葉が染みる。

「……そう言ってもらえると少し気が楽になるな。ありがとう」

シモーヌの気遣いに本当に救われる。

その一方で、今回は、

『子供なんだからとにかく保護するべきだ!!』

みたいなことを言いだすのがいなかったからそのままになったが、もしそういうのがいたら、果たしてどうなってたんだろうな。

保護するのは早まってたとしても、万が一、みずちのような危険な存在だった場合、何か被害が出てたりしなかっただろうか……

どちらが正解なのかは、やはり後で検証してみないと分からないのか……

これもまた、人間社会を作り上げる上で考えないといけないことだろうな。

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