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第三世代

按編 偏見

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あんは、<サーペンティアンの少女>を<外敵>とも<獲物>とも認識しなかったようだ。

正直、運が良かったと思う。あんが少女に気付いた時、獲物として襲っていても、俺は止めるつもりがなかったんだ。

もし反撃されてピンチになったとしても、号機もいるから大丈夫と思っていたし。

今から思うと、ゾッとしてしまうけどな。俺は危うく、<人間のメンタリティを持った少女>を見殺しにするところだったわけで。いくらみずちのことが頭にあったんだとしても。これこそが<偏見>ってやつなんだろうな。

みずちと同じ姿をしてるから、きっと……』

と無意識に思い込んでしまって、そこから先の可能性に思いが十分に至らなかった。

その一方で、インパラ竜インパラはそれこそ人間とは似ても似つかないからまだいいとしても、俺は、そうかいりんの群れ以外のレオンについては見捨ててきてるわけで、なのにまったく身内でもなんてもない<サーペンティアンの少女>についてはこんな気持ちになるんだから、おかしな話だ。

人間という生き物の難しさを改めて思い知らされる。

とは言え、人間の言葉をしゃべる子供の姿をしたのがむごたらしく死んでいくというのは、精神衛生上、やっぱりキツいものがあるのもまた事実。加えて、先祖返りを起こして人間の姿で生まれてきた子については、今でも助けられるなら助けようと思ってるし。

ここは素直に助けられてよかったと思っておこう。

ビアンカが少女を抱き上げると、そのヘビのような体をするすると彼女に巻き付けてきた。傍目にはそれこそヘビが獲物を締め上げようとしてる風にも見えたかもしれないものの、後から話を聞くと、まったく力は入っていなかったそうだ。少女にしてみれば普通に抱き付いたつもりだったのかもしれないな。

実際、少女は、ビアンカの胸に縋りつくようにして泣きじゃくっていた。無理もない。途轍もない不安の中にいたんだろうからな。

加えて、『そもそも今の自分の体の使い方が分かっていなかった』というのもあるらしい。

少女を抱いたビアンカがコーネリアス号に向かって歩き出すと、やはりあんが二人を見詰めていた。

あんも心配してくれてたんだ。ありがとう」

ビアンカが笑顔を向けると、あんも、ピクピクっと耳を動かした。

あんは、ビアンカに対しては、号機にしてるような接し方はしない。体を摺り寄せて甘えるようなのはな。

そう言えばふくも、俺以外に対しては基本的にしなかった。

いくら『敵じゃない』と思っていても、やっぱり、甘えられる相手とそうじゃない相手とは、しっかりと区別しているということか。

でも、それでいい。

あん達はそういうことなんだ。それでいいと俺は思う。

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