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第三世代

按編 あるがままに

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新暦〇〇三十三年三月十日。



今日も、あんはドーベルマンDK-a号機と一緒に寛いでいる。

時々、嬉しそうに頬を緩ませながら号機に体を擦り付けつつ。

ここ数年はもうずっとこの調子だ。

さらに今日は、

「こんにちは、あん

ビアンカが訪ねてきていた。

というのも、ビアンカもあんのことは気にかけていてくれたんだ。体長約三メートル。頭頂高二メートル強。長い六本の足を持つ、伝説上の生物<アラクネ>を思わせる彼女のことも、りん達はすっかり慣れてくれていた。

元々、伝説上のアラクネを意図して俺がヒト蜘蛛アラクネと呼んでいる種族とは生息域がまったく違うのでその存在を知らず、単に、

<すごく大きな怪しい獣>

として警戒していただけだったこともあってか、すごく穏やかで朗らかなビアンカのことは、りん達だけじゃなくそうかい達も今ではそれほど警戒していない。

もっとも、それはあくまで俺の下で育ったりんそうかい、そして号機に懐いたあんだけの話で、他のレオン達は今でもそれなりに警戒はしているけどな。

あんも、最初は大きなビアンカに怯えていたものの、今じゃすっかり平然としている。

りんそうかいは、警戒も敵視もあまりしていないとはいえ、近付くことは好まない。

なのに、あんだけはビアンカの接近も許してくれた。

だから、元々ネコ好きで、大型のネコ類を連想させるレオン達に強い関心を抱いていたビアンカは、自分を恐れないあんが今は一番のお気に入りらしい。

挨拶してきたビアンカに、しかしあんは視線を向けることはなかった。ただ、耳をピクリと動かしただけで。

実はこれが、レオンの挨拶の一つである。この辺りは本当にネコを連想させるな。

ビアンカもそれは承知しているから、自分に視線を向けてくないからといって機嫌を損ねたりもしない。

耳が反応しただけでも、

「ん~♡」

すごく嬉しそうだ。

ちなみにビアンカは、普段はカメラのライブ映像を見るだけで我慢してるが、月に一~二回くらいの頻度でこうやってあん達に会いに来る。ビアンカが今暮らしている<ビクキアテグ村>からは、彼女の足なら走って数分の距離だからな。村での<仕事>が休みなのを活かしてる。

ビアンカ自身、ずっと想っていた久利生くりうと身も心も結ばれて、今、最も幸せなんだそうだ。

コーネリアス号の乗員の一人だった<ビアンカ・ラッセ>の記憶と人格を持ちながらも、ヒト蜘蛛アラクネとほぼ同じ姿を持ったクモ人間アラニーズとして生まれ、すべてを悲観してもおかしくない<大きな不幸の中という境遇>だった彼女でさえ、幸せは掴めるんだ。

ここは、そういう世界なんだよ。

厳しくも、常に命の危険には曝されていても、すべてがあるがままに受け入れられる世界。

俺は、そういう世界のままで人間の社会が築かれることを願ってる。

まあ、<命の危険>については、緩和されてほしいのも正直なところだが。

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