上 下
997 / 2,387
第三世代

晴編 見守るだけに

しおりを挟む
新暦〇〇三十二年十月十二日。



かんの子に敗れたのに続いてメイフェアにも完膚なきまでに叩きのめされ、それでもせいは普通にしていた。

いつもと変わらずに鳥や小動物を確実に捕え、食う。

だが俺は、そんな様子にホッとする。

「人間ならやる気をなくしたりすることもあるかもしれないが、せいは大丈夫そうだな」

「そうですね。バイタルも問題ありません」

エレクシアが、ドローンのセンサーで収集したせいのバイタルサインを確認し、告げる。

こういう時には落ち込んでくれた方が話的には面白いのだとしても、野生に生きる者にはそんなことをしている暇もないし、そんなことをしていてはそれこそ自分が命を落とす番だ。人間には落ち込んでる余裕があるから落ち込んでいられるんだっていうのが分かるな。

その一方で、ちゃんと経験として身に付けて、自分を生かすために役立てる。

実際、せいもそれ以降、メイフェアに手を出そうとはしなかった。

しなかったんだが、

「メイフェアで懲りておけよ……」

と思うのは、俺が人間だからだな。<ロボット>というものを知らないせい達には、それが理解できない。

今日は、イレーネに襲い掛かったんだ。メイフェアがメンテナンスを受けるためにコーネリアス号に行ってる間の代理として来たイレーネに。

けれど、当然、歯が立つわけもない。

右手右脚が義手義足であり十分な性能を発揮できないイレーネは、左手の指をピンと伸ばして、まるで剣のように構えた。彼女のいつもの戦闘用の構えだ。そこから変幻自在に攻守一体の動きを見せて、せいを翻弄する。

そうしていくらか相手をすると、さすがにメイフェアと同等の相手だということを悟ったのか、今回はぶちのめされる前に逃げてくれた。

いつもこうだったらいいんだけどな。

とは言え、こんな風にして実地で経験を積んで学んでいくのが彼らの生き方だ。当然、その際に命を落とす者も出るわけだが、せいはここまで無事に育ってくれた。

俺としてはそれだけで満足だ。









新暦〇〇三十二年十月十五日。



と、今度は、めいかくの縄張りに入り込んできた若いマンティアンに遭遇。

「くそっ! マズいな……」

相手は、若いと言っても完全に巣立ったマンティアンだ。力では確実にせいを凌駕しているだろう。

だが、ドローンはもう一人、マンティアンの姿を捉えていた。

かく……?」

そう。かくだった。かくが少し離れたところから様子を窺うように見てたんだ。動かずに、じっと。

「そうか……見守るってことだな……」

せいの父親であるかくが見守るだけにしたのなら、祖父である俺も、余計な手出しはするべきじゃない、か……

今度こそ、見守るだけに留めよう。

今度こそ、な。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】Fragment

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:335

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

SF / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:529

いまさら好きだと言われても、私たち先日離婚したばかりですが。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:563

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,983pt お気に入り:3,042

世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:307

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,291

婚約破棄 ~ガチでやられると結構キツい~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4,522

処理中です...