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第三世代

アリニドラニ村編 必要なデータ

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などと一通り脱線した上で話を斗真とうまのに戻すが、だからこそ俺は斗真とうまのことも認めていきたいと思うんだ。

彼がこれからどうするかは分からないが、アリニドラニ村については、彼の好きにさせてやってもいいと考えてる。

余計なことをして村が滅茶苦茶になったとしても、それはそれで貴重なデータだ。得られたデータを今後に役立てていければ何も問題はない。

元々、アリゼドラゼ村もアリニドラニ村もそれ自体が一種の実験だからな。

実験というのは、成功しなければ意味がないわけじゃない。むしろ失敗したからこそそこから貴重なデータが得られることだってあるそうじゃないか。

だったらもう、どんな結果になったってその結果へと至るデータが得られればそれでいいんだよ。







新暦〇〇三十二年八月七日。



俺としてはそう開き直っていたというのに、斗真とうま自身は、意外なほど身の程をわきまえていて、破壊活動的な無茶はしなかった。

もちろん、人間ほどは要領が分かっているわけじゃないから、試作された鉄のインゴットのサンプルをいじろうとして引っくり返してしまったり、高炉に空気を送りこむためのふいごの部品を止めておくためのロープをいじって解いてしまったりという失敗はあったものの、悪意を持ってやったことじゃなかったから、叱ることさえしなかった。

たぶん、ルプシアンに人間式の<叱る>は意味がない。それに、鉄のインゴットが床に落ちて大きな音を立てたり、ふいごが壊れて倒壊したりしたのを見て、斗真とうまは逃げた。

何か大変なことになったというのは察したんだろう。

本人がそれを理解してくれているのなら、そこにわざわざ改めてストレスをかける必要もない。

もし、俺が声を掛けるとすれば、

「怖かったか? なら、もうするなよ」

くらいだろうか。

斗真とうま自身がまったく気にしていないようで、同じことを何度も繰り返すのなら、もしくは鉄のインゴットが床に落ちたりふいごが倒壊するのを面白がっているようなら近付けさせないようにもしたが、彼の場合はそうじゃなかったからな。

『これはなんだろう?』

『自分もやってみたい!』

という好奇心の表れで、しかも、

『大変なことをしてしまった…!』

と本人が思っているのなら、同じ失敗は繰り返さないんじゃないかな。

<失敗>というのはそれ自体が貴重な経験だ。絶対に失敗してもらっては困るものであれば、そもそも確実にこなせる水準に達していない者をその場に置くのがおかしい。

しかしアリニドラニ村は、失敗も込みの<実験場>なんだ。

だから斗真とうまがやらかすことも、今後、獣人と上手く折り合いをつけていくのに必要なデータでもある。

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