933 / 2,628
第三世代
保編 保
しおりを挟む
保は、パパニアンである誉と碧の息子で、第一子でもある。
これからしばらくの間、時間をさかのぼり、保が誉の群れを巣立つまでのことを語っていきたいと思う。
新暦〇〇三十一年三月十五日。
パパニアンの雄は、基本的に五歳から十歳までの間くらいに生まれた群れを巣立って別の群れに合流することが多いんだが、だからと言って全ての雄がそうかと言うと、実は必ずしもそうじゃないらしい。
中にはそのまま生まれた群れに居座る雄もいるようだ。
保もそうだった。
もう実年齢で二十歳を超えた(老化抑制処置を受けてなかった頃の人間で言うと三十代半ばくらい?)というのに、誉の群れに残ってたんだ。誉も特段、保を追い出そうとはしなかった。保に限らず、他の子もだ。
それが果たして好ましいことなのかどうかは、解釈が分かれるところだろう。
『厳しくするべきだ!』
という意見もあるとは思う。
しかし、それぞれの選択が吉と出るか凶と出るかは、結果が出てみないと結局は分からない。そして、誉の選択がよくない結果を招いたとしても、これは誉自身の責任であり、そして彼をボスに頂くことを選択した群れそのものの責任でもある。
だから俺は口出ししない。悪い結果が出たとしても、その結果を受け止めるようにとは心掛けてる。
誉はもう俺の下から巣立ち、自分の力で群れを維持している一人前の雄だ。
……とは言いつつ、親心としては、もし頼られたら力を貸さずにいられないけどな。
が、誉が俺を頼ってきたのは、基本的に和が生まれた時くらいか。パパニアンの群れの中でも生き延びた順のような例もあるにはあるが、あれはあくまで奇跡のような偶然が重なって生じた例外的な事例でしかないと思う。
順を生んだ母親か、もしくは母親以外の別の雌が順を見捨てず育てたのと、たまたまその時の群れのボスが排除しようとしなかったことで生き延びられただけだろう。普通はまず母親に育児放棄されるか、異様な怪物と見做されて排除されるかのどちらかだろうしな。
和の場合も、そもそも実の母親に恐れられ、他の雌も手を差し伸べようとはしなかったことで、誉は、自分達の群れでは育てられないと判断し、自ら異物を排除すると見せかけて俺達のところまで和を連れて来てくれたんだ。
自分にできないことは無理をせず、できる者に頼る。
『他人を頼るのは、自分の価値を下げること』
みたいに考えて自分にはできもしないことをやれるフリする……なんてことがない誉を、俺は誇りに思う。
同時に、
『自分にできることを、ただ楽をしたいだけで他人任せにする』
こともないからな。
その誉が保を追い出さないのなら、俺がとやかく言うことじゃないよ。
それに保も、決して、親の脛をかじってるだけの頼りない奴じゃない。ちゃんと群れの中での役目をしっかり果たしてる。
だから、<将来のボス候補の一人>でもあるんだ。
これからしばらくの間、時間をさかのぼり、保が誉の群れを巣立つまでのことを語っていきたいと思う。
新暦〇〇三十一年三月十五日。
パパニアンの雄は、基本的に五歳から十歳までの間くらいに生まれた群れを巣立って別の群れに合流することが多いんだが、だからと言って全ての雄がそうかと言うと、実は必ずしもそうじゃないらしい。
中にはそのまま生まれた群れに居座る雄もいるようだ。
保もそうだった。
もう実年齢で二十歳を超えた(老化抑制処置を受けてなかった頃の人間で言うと三十代半ばくらい?)というのに、誉の群れに残ってたんだ。誉も特段、保を追い出そうとはしなかった。保に限らず、他の子もだ。
それが果たして好ましいことなのかどうかは、解釈が分かれるところだろう。
『厳しくするべきだ!』
という意見もあるとは思う。
しかし、それぞれの選択が吉と出るか凶と出るかは、結果が出てみないと結局は分からない。そして、誉の選択がよくない結果を招いたとしても、これは誉自身の責任であり、そして彼をボスに頂くことを選択した群れそのものの責任でもある。
だから俺は口出ししない。悪い結果が出たとしても、その結果を受け止めるようにとは心掛けてる。
誉はもう俺の下から巣立ち、自分の力で群れを維持している一人前の雄だ。
……とは言いつつ、親心としては、もし頼られたら力を貸さずにいられないけどな。
が、誉が俺を頼ってきたのは、基本的に和が生まれた時くらいか。パパニアンの群れの中でも生き延びた順のような例もあるにはあるが、あれはあくまで奇跡のような偶然が重なって生じた例外的な事例でしかないと思う。
順を生んだ母親か、もしくは母親以外の別の雌が順を見捨てず育てたのと、たまたまその時の群れのボスが排除しようとしなかったことで生き延びられただけだろう。普通はまず母親に育児放棄されるか、異様な怪物と見做されて排除されるかのどちらかだろうしな。
和の場合も、そもそも実の母親に恐れられ、他の雌も手を差し伸べようとはしなかったことで、誉は、自分達の群れでは育てられないと判断し、自ら異物を排除すると見せかけて俺達のところまで和を連れて来てくれたんだ。
自分にできないことは無理をせず、できる者に頼る。
『他人を頼るのは、自分の価値を下げること』
みたいに考えて自分にはできもしないことをやれるフリする……なんてことがない誉を、俺は誇りに思う。
同時に、
『自分にできることを、ただ楽をしたいだけで他人任せにする』
こともないからな。
その誉が保を追い出さないのなら、俺がとやかく言うことじゃないよ。
それに保も、決して、親の脛をかじってるだけの頼りない奴じゃない。ちゃんと群れの中での役目をしっかり果たしてる。
だから、<将来のボス候補の一人>でもあるんだ。
0
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる