上 下
931 / 2,566
新世代

來編 遠い未来

しおりを挟む
正直、この時のビアンカの判断を、

『有り得ない!』

『男にとって都合のいい話!』

と憤慨する人間もいるだろうとは思う。

が、それはあくまで地球人類のメンタリティによって成立している人間社会でのみ通用する話だというのを忘れちゃいけないだろうな。それが気に入らないからといって、じゃあ、どういう解決を図る? って話だよ。

アラニーズ、クロコディア、透明人間。

そもそも生物としての成り立ちからして地球人類とはまるで違う。その大前提からしてまったく異なる相手に、地球人類の常識を当てはめること自体、<傲慢>ってものじゃないか?







新暦〇〇三十三年一月二十三日。



なんて、<地球人類の常識>などどこ吹く風と、人間の姿を持った我が子を育児放棄しなかったきたるは、ベテラン母として赤ん坊を育て始めた。

とは言え、それでも普通のクロコディアの赤ん坊とは違うわけで、戸惑うところもあるだろう。

特に、基本的には水中が普段の生活圏になるクロコディアと違って人間の赤ん坊は、水中での生活に適した体をしてないからな。

だから、溺れたりしないかっていうので俺達はハラハラし通しだった。

特に、ビアンカと久利生くりうは、実質、初めての子育てということもあって、それこそ気が気じゃなかったと思う。食料を得るための狩りはドーベルマンMPMに任せ、交代で付きっ切りできたると赤ん坊を見守る。

それこそ最初の頃は、きたるが赤ん坊を抱いたまま水中に消えたりすると、ビアンカは

「ああっ!」

と声を上げて池に飛び込みそうになり、普段は冷静そうな久利生くりうでさえ、

「っ!!」

息を詰まらせて身構えた。

経験者としての立場で見ると、新米親達の様子は実に微笑ましいな。

なのに、当のきたる自身は平然としたもので、しかも赤ん坊の方も、人間の感覚では乱暴にも見える扱いにもさほどぐずるでもなく、水中に没しても水を飲んでむせるでもなく、実に<普通>だった。

ひかりあかりじゅんまどかひなたれいがそうであるように、パッと見は人間に見えても、その身体能力や備わった本能はやはり元々の種族のそれを強く受け継いでいるということなんだろうな。

実に頼もしい。

で、きたる久利生くりうの赤ん坊の名は、

未来みらい

に決まった。名付けたのは父親である久利生くりうだ。

いささか安直かもしれないが、文字通りこの惑星せかいの未来を築いていく子だからな。しかも父子合わせて、

『遠い(遥偉)未来』

か。なるほど。

ちなみにエコーで確認できてたとおり、男の子だ。

少々目付きが悪くて愛想はなさそうだが、意志の強そうな子だった。そしてその印象どおり、力強く乳を飲み、しっかりと母親にしがみついて、母親と同じく油断なく周囲を窺う姿がすでに頼もしい。

きっと力強くこの世界を生きていってくれるだろう。

一方、きたるの方も、クロコディアとして何人もの子を育て、生き抜いてきた。

それで満足のいく生涯だったかどうかは、俺には分からない。他人がそれを勝手に推し量るのは傲慢な行為だと思う。

本当のところは彼女にしか分からないとしても、きたるの佇まいは、とても気高く、力強く、存在感に溢れていた。少なくとも自分の人生を悲観して嘆いてウジウジとしているような印象ではまったくない。

たぶん、最後の子になるであろう<未来みらい>が本来のクロコディアの姿でなくてもそれを気にしてる様子もない。

だとしたら、それでいいんじゃないかな。

きたるはカッコいいね」

未来みらいを抱いて池の浅瀬に立ち、周囲を睥睨するかのように視線を巡らせる彼女の姿を見て、久利生くりうが呟いた。するとビアンカも、

「はい。カッコいいです」

しみじみと頷く。



こうして、遠い未来に向けての新しい一歩が刻まれた。

その中で、<未来みらい>を抱いたきたるは、遠くを見据えていたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...