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新世代

來編 不定形生物

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まあ、きたるあきらの場合は、『強い』と言ってもあくまで常識的な範囲内だろう。

『他人よりはちょっとだけ喧嘩が強い』

程度の。龍然りゅうぜんみたいなのとはたぶん違う。

そんなきたるの毎日は、ちょくちょく仲間との餌の奪い合いなども起こりながらも、それ自体がただの日常の光景だというのもあるのか、めいのそれにも通ずる非常に淡々としたものだった。

実際、餌を奪われたからってそれを恨みに持つとかいうのはほとんど見られず、きたるに餌を奪われたクロコディアも、それが終われば平然としてるし、逆に、他のクロコディアに餌を奪われたきたるも、だからと言ってそのクロコディアにしつこく攻撃を仕掛けるようなこともない。

気性は荒いが、割とカラッとした性格なのかもしれないな。クロコディアそのものが。

だからか、ある意味では安心して見ていられた。

その一方で、<河>と言えば、例の不定形生物の主な生息地なので、それについての心配はある。

が、クロコディアは不定形生物の接近を敏感に察知し、基本的にはさっと逃げ去ってしまう。

どうやら、水中の生物が発するごく僅かな電気信号を察知する器官がクロコディアには備わっていて、それが不定形生物の接近も知らせてくれるのだと推測されている。

なので、クロコディアが捕食された事例は、ここまででも数えるほどしか確認されていなかった。しかも不定形生物自体、河底に沈んだ生物の死骸などを捕食しているとも見られていて、別に生きている獲物を積極的に狙う必要もないようだし。

こうして生態が分かるにつれ、不定形生物への恐怖心みたいなものは薄れていくのが自分でも分かる。

それはシモーヌも同じで、

「これがもっと早くに判明してれば、対応の仕方も変わってたかもしれないのにな……」

とも呟いた。

あれのとんでもない生態を警戒するあまり、コーネリアス号の乗員達は精神的に追い詰められていたと考えることもできるか。

まったく皮肉な話だよ。

とは言え、生きている動物を襲うことがあるのも事実で、時にはサイゾウが襲われることもあった。

『時には』と言うのは、実はサイゾウは滅多に襲われないんだ。クロコディアほどは探知能力は高くない上に動きも決して俊敏ではないのに、狙われない。

もしかすると<捕食>するには大きすぎる?

ある日、きたるは、対岸で猪竜シシが不定形生物に襲われているところに出くわした。

でも、警戒はしながらも、割と落ち着いてその様子を見ていたようだった。

以前にも触れたとおり、コーネリアス号の乗員由来の動物はあの不定形生物を強く恐れる傾向があるが、クロコディアは長く生息域を共有し身近で生きてきたことで慣れてしまったというのもあるのかもしれないな。

だからちからが追われてたのは、河底で永眠するはずだった<はるかの基になった<クロコディアの雌>の遺体を奪われまいと抵抗したのが原因の可能性があるか。

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