上 下
694 / 2,554
新世代

走・凱編 俺の役目

しおりを挟む
この群れにおいて、肉体的な戦闘力とかいう面なら俺は、おそらく最弱の存在だ。子供達でさえ、普通に走り回れる程度まで成長すれば、身体能力的にはまず間違いなく俺より強い。

そんな俺のここでの役目は、

『個性の強すぎる皆が互いに折り合いを付けて無駄に衝突することなく力を合わせて生きていけるようにすること』

だというのが、時間が経つほどに実感できていく。

何しろ、実際に上手くいってるんだから。

もちろん、何も問題がないわけじゃない。子供達は家を壊しまくるし、それぞれ好き勝手なことをしてるから行動を合わせることが難しい。言うことを聞いてくれない。

だが、それでいい。俺にとって都合のいいように動いてくれることを望んでるわけじゃない。ただみんなが決定的にはいがみ合わずにいてくれればいいだけだ。そのために尽力するのが俺の役目だ。

ビアンカのことについても、もし、この惑星の生物の生態を学者として研究した人間がいたら、ヒト蜘蛛アラクネの生態をよく知っている人間がいたら、ビアンカを受け入れるのは、それこそ人喰いの獣を家に連れ帰るような暴挙に見えるだろうな。

でもな、俺は知ってるんだ。彼女がヒト蜘蛛アラクネじゃないということを。その体はヒト蜘蛛アラクネと同じであっても、彼女は違う。彼女は間違いなくクモ人間アラニーズだ。その事実を認めず、彼女を人喰いの獣として糾弾することを、俺はこの群れのボスとして認めない。たとえそれが、ヒト蜘蛛アラクネに家族を食われた人間であっても。

俺は、誰かを断罪しようとする時には、思い込みではなく客観的な事実を根拠として提示することを望む。これは、ここに人間の社会が出来上がっていくのなら、守るべき鉄則としなきゃいけないだろうな。それを疎かにすれば、冤罪によって人が処断されるのを許すことにもなりかねない。それを許さないから、人間はここまで生き延びられたんだ。

今の人間が持つ力はあまりに強大だ。テラフォーミングにも使われている技術を応用すれば、惑星をたった一発のミサイルで破壊することさえできるという。それを誰か個人の思い込みで使えば、数億の人間の命すら奪うことができてしまう。だから厳しく律することが必要なんだ。その場の感情や思い込みだけでこれだけの破壊をもたらすことができるのは、人間以外にはいない。獣と同じ感覚で力を振るっちゃいけないんだ。人間がそれをすれば、待っているのは破滅だ。

俺がそれを理解しないといけない。この群れのボスとして。破壊と殺戮をもたらすことができる<力>を行使することができる者として、エレクシア達の<主人>として。

報われなくても構わない。報われることを期待してはやらない。報われることを期待すると、期待した通りにならなかった時に冷静さを失う。冷静さを失うと判断が鈍る。

それが、人間の<長>に求められるものなんだって今ならよく分かるよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...