632 / 2,624
新世代
明編 一線
しおりを挟む
『頼む、明、ビアンカを殺すな……!』
俺は心の中で怒鳴るように祈った。
ビアンカを救いたいのもそうだし、明に<人殺し>をさせたくない。
それが野生の中で生きる上での<普通>に反することだとしても、あの子の親としての素直な俺の気持ちだ。
万が一間に合わずに明がビアンカを殺してしまっても、責めたりはしない。しないが、人間としての俺の感覚ではそれがどうしても<一線>としてある。同族である人間を殺すことは禁忌であると無意識のレベルにまで思い込ませることに成功した人間ならではの感覚だろうな。
なのに、遭遇してしまった。明とビアンカが。
ビアンカの姿が見えた瞬間、明が戦闘態勢に入るのが分かった。
「くそっ!!」
つい声を上げてしまう。
俺がもっと早く決断していれば……
あそこでボクサー竜が現れなければ……
明が走りださなければ……
そんなことを考えてしまうが、どれも詮無いものだな。物事ってのは自分の思い通りにはいかないのが普通だ。特に、厄介事というのは。
そしてここから先はまた、後で映像を改めて確認して分かった内容で説明していく。
ものすごいスピードでビアンカに迫った明だったが、意外なことにビアンカもそれに気付いたらしくハッとした様子を見せたと思った瞬間、人間部分の体を丸めて防御の姿勢をとった。
さらにはクモ(に似た)部分の体を沈み込ませるように下げると、明の鎌が空振りして素通りしてしまう。
たぶん反射的に咄嗟に躱したのだろうが、おそらく人間にはできない反応だった。この辺りからも、やはりヒト蜘蛛と同等の身体能力を持っているものと推測できる。しかもそれを、意識して使いこなせるかどうかはまだ判然としないものの、少なくとも潜在能力としては確実に持っているんだろうな。
「!?」
本来なら必殺の一撃だったものを躱されて、今度は明が驚いたのが分かった。
ヒト蜘蛛はその巨体に似合わず俊敏なんだ。嶽も決して鈍重ではなかったものの、やはり体が大きい分、明の動きには完全にはついていけてなかった。鎧状の堅牢な外皮が彼女の攻撃の一切を弾いてみせただけで。
なのに、今、明が初めて目にしたこの<大きな獣>は、彼女の攻撃を確実に躱してみせたのだ。晴を胸にしがみつかせていることで若干、本来の動きではなくなっているとはいえ。
だがそんなことで明は怯まない。空中で体勢を入れ替えて木の幹に着地すると、今度は背後から襲い掛かろうとした。するとビアンカのクモ(に似た)部分の後ろ脚が持ちあがり、明の体に叩きつけられた。
明はそれを鎌で受けたが、体ごと弾き飛ばされる。
凄まじい攻防であった。
俺は心の中で怒鳴るように祈った。
ビアンカを救いたいのもそうだし、明に<人殺し>をさせたくない。
それが野生の中で生きる上での<普通>に反することだとしても、あの子の親としての素直な俺の気持ちだ。
万が一間に合わずに明がビアンカを殺してしまっても、責めたりはしない。しないが、人間としての俺の感覚ではそれがどうしても<一線>としてある。同族である人間を殺すことは禁忌であると無意識のレベルにまで思い込ませることに成功した人間ならではの感覚だろうな。
なのに、遭遇してしまった。明とビアンカが。
ビアンカの姿が見えた瞬間、明が戦闘態勢に入るのが分かった。
「くそっ!!」
つい声を上げてしまう。
俺がもっと早く決断していれば……
あそこでボクサー竜が現れなければ……
明が走りださなければ……
そんなことを考えてしまうが、どれも詮無いものだな。物事ってのは自分の思い通りにはいかないのが普通だ。特に、厄介事というのは。
そしてここから先はまた、後で映像を改めて確認して分かった内容で説明していく。
ものすごいスピードでビアンカに迫った明だったが、意外なことにビアンカもそれに気付いたらしくハッとした様子を見せたと思った瞬間、人間部分の体を丸めて防御の姿勢をとった。
さらにはクモ(に似た)部分の体を沈み込ませるように下げると、明の鎌が空振りして素通りしてしまう。
たぶん反射的に咄嗟に躱したのだろうが、おそらく人間にはできない反応だった。この辺りからも、やはりヒト蜘蛛と同等の身体能力を持っているものと推測できる。しかもそれを、意識して使いこなせるかどうかはまだ判然としないものの、少なくとも潜在能力としては確実に持っているんだろうな。
「!?」
本来なら必殺の一撃だったものを躱されて、今度は明が驚いたのが分かった。
ヒト蜘蛛はその巨体に似合わず俊敏なんだ。嶽も決して鈍重ではなかったものの、やはり体が大きい分、明の動きには完全にはついていけてなかった。鎧状の堅牢な外皮が彼女の攻撃の一切を弾いてみせただけで。
なのに、今、明が初めて目にしたこの<大きな獣>は、彼女の攻撃を確実に躱してみせたのだ。晴を胸にしがみつかせていることで若干、本来の動きではなくなっているとはいえ。
だがそんなことで明は怯まない。空中で体勢を入れ替えて木の幹に着地すると、今度は背後から襲い掛かろうとした。するとビアンカのクモ(に似た)部分の後ろ脚が持ちあがり、明の体に叩きつけられた。
明はそれを鎌で受けたが、体ごと弾き飛ばされる。
凄まじい攻防であった。
0
お気に入りに追加
188
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる