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新世代

誉編 エピローグ

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新暦〇〇二八年八月二十五日。



今回のがくの件は、俺にとって大きな教訓になった。

普通の動物ではない<不定形生物由来の生物>を安易に排除しようとするのは逆に自分達の首を絞めかねないということだ。

あれはまだまだ分からない部分が多すぎる。だから迂闊に手は出さない方がいいということだろうな。

もちろん、襲われでもすれば反撃しない訳にもいかないものの。こちらから攻撃を仕掛けるのはやはりやめようと思う。

そのためには近付かせないことが必要だが、それにも光明が見えた。

がくがドーベルマンDK-a拾号機と拾壱号機に対して強い関心を示していたのは、それが人間の気配を発するものだからだと推測したんだ。

そう、人間を恨んでいるのなら、人間の気配のする方へと引き寄せられる可能性が考えられる。

だったら、わざと人間の気配を悟らせて、つまり、人間の気配を放つ人工物、すなわちドーベルマンDK-aや目立つドローン、プローブを囮にすることである程度の誘導ができるかもしれないということだな。

また、今回のことをきっかけに昔の記録、特にきょうについてのそれを読み返してみたんだが、俺はその時点で、しきりに、

『動物として有り得ない』

的なことを言っていたのが、それによって思い出された。中でも、きょうがやけにドローンを意識してるのに気付いていながら、あの不定形生物と関連付けて考察するところにまで考えが至っていなかったんだ。

あの時点ではシモーヌもいなかったし、不定形生物がコーネリアス号の乗員達の情報を保持してることも知らなかったとはいえ、シモーヌと出逢い、彼女が不定形生物についての重要な情報をもたらしてくれたにも拘らずそれらを結び付けて考えることができなかったことが悔やまれる。

この辺りが、俺の限界ってことなのかもしれないな……



ところで、あの時、とどろきが無謀なことをしたようにも見えたが、結果としてはあいつが囮になった形で決定的な隙を作り、それが勝利をもたらしたんだからまあよかったんだろう。

などと思ってたら、どうやらあれはただの無謀ではなかったらしい。あいつなりにメイフェアを信じての行動だったと、とどろきほまれと『話して』いた内容をメイフェアが聞き取って、俺に伝えてくれた。

「まさか私のことをこんなに信頼してくださっているとは思いませんでした……」

メイフェアが少し申し訳なさそうに言う。

なにしろ彼女は、ほまれの手を煩わすとどろきのことを、感情の面では毛嫌いしていたからな。

それなのに、当のとどろきの方は、彼女をきちんと<戦力>として捉えて、それを活かそうとしてたんだ。

これは、今後もメイフェアを従えることになるであろうあの群れのボスになる可能性のある者としては重要なことかもしれない。とどろきには既に、その素養が生まれつつあるということだろうか。

次…のボスにはさすがにまだ若すぎるだろうが、次の次、あるいはその次あたりにボスになった時、メイフェアをうまく使ってくれるかもしれない。

そういう感じで、有望な若い雄が育っていってるほまれの群れは、今日も平穏だった。

その平穏さは、しっかりとしたリーダーがいることでもたらされているのは間違ないないと思う。

俺の息子がそれをできているということが、なんだかとても誇らしい。

俺だけじゃなく、ほまれの母親であるひそかのことも認められたみたいで、改めて嬉しくなってしまうんだ。

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