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新世代

誉編 愚痴

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新暦〇〇二七年六月四日。



群れの若い雄だけでなく、自分より年上の古株に対してもほまれは強さを見せつけた。基本的にはほまれをボスと認めつつも、雄としての本能は枯れてないのか、時折、突っかかってくることもある。

しかしあいつはそんな時も慌てない。心身共に充実した全盛期の肉体を持つほまれが地力で勝るからな。

それに、これ自体がパパニアンの雄にとってはレクリエーションなのだろう。誰が自分達のボスであるかということを確認するための。

だからケンカしているように見えても、実際には群れとして安定していた。逆にただただ仲良しこよしをしているようでは野生として生きていくのは難しいのかもしれない。

その辺りの違いを認めないとついつい余計な手出し口出しをしてしまいかねないだろうと心掛ける。

メイフェアについてもその辺りを割り切ってもらうように、常に彼女の心理パラメータのチェックは欠かさない。感情(のようなもの)を備えたメイトギアには必須のメンテナンスだとシモーヌから教わった。

二千年分の世代の差からシステムの互換性がまったくなくレガシー化してしまっているメイフェアではエレクシアとはリンクできないが、同時代のセシリアやイレーネとはリンクできるので、メイフェアの状態を常にモニターしてもらっている。

すると、群れの雄がほまれに突っかかる度にも彼女には強いストレスがかかっていることが分かった。

そんな訳で、彼女の<愚痴>を聞くのも俺の仕事になっているんだ。

とどろき様はもう少しほまれ様を敬っていただきたいと思うのです。心理育成プログラムに齟齬があったのでしょう」

とかな。俺から見ると十分、とどろきほまれをボスとして認めてて、その上で本人にとっては<越えなければならない高い壁>として君臨しているだけでしかないと思うんだが、人間社会の規範がベースになっていて、<人間の常識>から外れることのできない彼女にとってはとどろきの振る舞いは、

<躾のなっていない厄介者>

にしか見えないそうだ。

人間ならその辺りも、『郷に入っては郷に従え』で価値観を更新していくこともできるし、本来の仕様のロボットであればそもそもパパニアンを人間と同列には認識しないので、人間の常識を当てはめることもない。

もちろんメイフェアもそうではあるものの、感情(のようなもの)が、その辺りを割り切ることを阻害してるらしいんだよな。

しかし俺ももうそのこと自体に慣れたので、むしろ彼女のそういう融通の利かなさが可愛いという気さえしてきている。

「ははは。メイフェアも大変だな。でもほまれは上手くやってるよ。これからも見守ってほしい。メイフェアがいてくれるから俺も安心して任せられるんだし」

俺の言葉に、

「えへへ♡」

とメイフェアは笑ったのだった。

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