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幸せ

ありがとう(愛してる)

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新暦〇〇二六年六月三日。



壊れていくひそかを、俺は受け入れた。

俺の隣でぼんやりと中空を見詰める彼女の口からは、涎も垂れている。

正直、彼女との幸せな思い出がなかったら、きっと、ここまでしようとは思えなかっただろうな。それまでの関係性がこういう時こそ出てくるのかもしれない。

彼女の体を撫でながら、改めてそんなことを思う。

例えばひそかがこれまで俺のことを蔑ろにしてきてたりだったら、俺は、

『絶好の機会を得た!』

とばかりに彼女を蔑ろにしてただろう。そうであってほしくないとは思うが、たぶん、それが現実だ。

『情けは人の為ならず』

というのは、まさにこういう時のことを言うのかもしれない。ひそかは俺を大切にしてきてくれた。だからこそこんな風になっても俺も彼女を大切にしたい。

彼女が俺に掛けてくれた<情け>を、彼女に返したい。

しかも、ひそかは何か見返りを求めてそうしてたわけじゃないのが分かるから、彼女がこうなって、俺がいくら尽くしても何も返ってこないのが分かってても気にならない。

もっとも、何度も言うように、忘れないように何度も自分に言い聞かせてるように、それ自体がエレクシアやセシリアやイレーネの助けがあってこそなんだけどな。

そうだ。俺のやることは、俺一人の力で成し遂げられてるわけじゃない。

エレクシアや、セシリアや、イレーネや、シモーヌや、ひかりや、あかりの力があってのことなんだ。

いや、きっと、他の子供達もそうだし、じんようふくの力もあってのことだと思う。

いい話風にまとめたいからそう言ってるんじゃない。これはあくまで俺自身の実感の話だ。

これらのことは、できれば人間社会にいた時に気付きたかったが、しかし人間社会を離れたからこそ冷静に見られるようになったというのも事実なわけで、思うに任せない、だがそういう辛さがあるからこそ幸せも感じられるというのが人生というものだというのもそれで教わったな。

ならそれこそ、学んだことを活かしていかなきゃいけないか。

一年か二年か、それとももっとかもしれないが、ひそかの人生の最後を穏やかなものにしてやらなきゃ。

俺が受けた恩の何割かだけでも、返していかなきゃって素直に思える。

そして俺が、同じことを何度も言うのは、昨日の自分と今日の自分が変わっているのかいないのかを確認する為でもある。

自分が、好ましくない方向に変わってしまっていないかを、その時その時に考えている内容を比べることで確かめるんだ。

うん、大丈夫だ。俺はまだ大丈夫だ。だから素直に言える。



ひそか…ありがとう……

愛してる……」



なんてことを俺が改めて気付いたからってわけでもないんだろうが、俺がそれに気付いたのを見届けたからってわけでもないんだろうが、この一ヶ月後、ひそかもやっぱり、眠るように息を引き取ったのだった。

苦しむことなく、穏やかに、俺達に見守られながら気が付いたら呼吸が止まっていたという感じで……



お疲れ様、ひそか……



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