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幸せ

恐ろしい病(どうやって付き合ってきたんだろうか)

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新暦〇〇二六年三月二十日。



<認知症>を患った密(ひそか)が汚した床や、彼女自身の体を手早く確実に、しかも不平一つ漏らさずに淡々と綺麗にしていくエレクシアやセシリア、イレーネの姿に、俺は、彼女達メイトギアが、そもそも高齢者や体の不自由な者の介護などを本来の目的として開発されたんだということを改めて実感させられていた。

正直、エレクシア達がいなければ、俺は、ひそかに対して冷静に接することができていた自信がない。壊れていくひそかを受け止められていた自信がないんだ。

『どんな風になったってひそかひそかだ。受け止めてあげなくちゃいけない』

なんて考えていたのがとんでもなく甘い認識だったということを思い知らされた。もし、俺一人で彼女の面倒を見ていたら、正気を保っていられたかどうか……

あんなに愛していたはずの彼女のことも、愛し続けられていたかどうかも分からない。

妹の最期を看取った経験があったから、きっとどんなことがあってもそれよりはマシだろうという甘い見通しがあったことは否めない。だが、違うんだ。妹の時とはまた違う無力感が俺を蝕もうとする。

それほど恐ろしい病気だということなんだな……

本当に、昔の人間達はどうやってこんな病気と付き合ってきたんだ……?

「介護に疲れ果て、心身共に異常をきたし、ついには事件に至ったという記録が多数あります。

故に人間は、私達メイトギアを欲したのでしょう。介護の負担を減らし、愛する人を愛し続けられる心の余裕を取り戻すために。

マスター。ひそかの介護は私達にお任せください。私達はロボットです。疲れを知らず、苦痛を知らず、休むことなく完全な介護を行うことが私達メイトギアに与えられた機能なのです。どうぞそれを活かしてください。

そしてマスターは、最後までひそかを愛してあげてください。

私達メイトギアは、その為に存在するのです」

エレクシアが、そう語ってくれた。

ぼんやりと虚空に視線を向けるひそかを抱き締めながら、俺は、

「ありがとう…ありがとう……」

と、何度も噛みしめるように口にした。

エレクシアの言う通り、俺は、壊れるまでひそかと一緒にいることを望んだことと引き換えに、彼女を最後まで愛することを誓ったんだ。

彼女はもう、どうやら俺のことも分からなくなってしまったらしい。

でも、いいんだ。

それでも俺は彼女を愛してる。口先だけになってしまってるんじゃないか?という不安はありつつも、それでも愛してる。

その気持ちに嘘はない。

挫けそうになるのもありつつも、な。

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