438 / 2,554
幸せ
恐ろしい病(どうやって付き合ってきたんだろうか)
しおりを挟む
新暦〇〇二六年三月二十日。
<認知症>を患った密(ひそか)が汚した床や、彼女自身の体を手早く確実に、しかも不平一つ漏らさずに淡々と綺麗にしていくエレクシアやセシリア、イレーネの姿に、俺は、彼女達メイトギアが、そもそも高齢者や体の不自由な者の介護などを本来の目的として開発されたんだということを改めて実感させられていた。
正直、エレクシア達がいなければ、俺は、密に対して冷静に接することができていた自信がない。壊れていく密を受け止められていた自信がないんだ。
『どんな風になったって密は密だ。受け止めてあげなくちゃいけない』
なんて考えていたのがとんでもなく甘い認識だったということを思い知らされた。もし、俺一人で彼女の面倒を見ていたら、正気を保っていられたかどうか……
あんなに愛していたはずの彼女のことも、愛し続けられていたかどうかも分からない。
妹の最期を看取った経験があったから、きっとどんなことがあってもそれよりはマシだろうという甘い見通しがあったことは否めない。だが、違うんだ。妹の時とはまた違う無力感が俺を蝕もうとする。
それほど恐ろしい病気だということなんだな……
本当に、昔の人間達はどうやってこんな病気と付き合ってきたんだ……?
「介護に疲れ果て、心身共に異常をきたし、ついには事件に至ったという記録が多数あります。
故に人間は、私達メイトギアを欲したのでしょう。介護の負担を減らし、愛する人を愛し続けられる心の余裕を取り戻すために。
マスター。密の介護は私達にお任せください。私達はロボットです。疲れを知らず、苦痛を知らず、休むことなく完全な介護を行うことが私達メイトギアに与えられた機能なのです。どうぞそれを活かしてください。
そしてマスターは、最後まで密を愛してあげてください。
私達メイトギアは、その為に存在するのです」
エレクシアが、そう語ってくれた。
ぼんやりと虚空に視線を向ける密を抱き締めながら、俺は、
「ありがとう…ありがとう……」
と、何度も噛みしめるように口にした。
エレクシアの言う通り、俺は、壊れるまで密と一緒にいることを望んだことと引き換えに、彼女を最後まで愛することを誓ったんだ。
彼女はもう、どうやら俺のことも分からなくなってしまったらしい。
でも、いいんだ。
それでも俺は彼女を愛してる。口先だけになってしまってるんじゃないか?という不安はありつつも、それでも愛してる。
その気持ちに嘘はない。
挫けそうになるのもありつつも、な。
<認知症>を患った密(ひそか)が汚した床や、彼女自身の体を手早く確実に、しかも不平一つ漏らさずに淡々と綺麗にしていくエレクシアやセシリア、イレーネの姿に、俺は、彼女達メイトギアが、そもそも高齢者や体の不自由な者の介護などを本来の目的として開発されたんだということを改めて実感させられていた。
正直、エレクシア達がいなければ、俺は、密に対して冷静に接することができていた自信がない。壊れていく密を受け止められていた自信がないんだ。
『どんな風になったって密は密だ。受け止めてあげなくちゃいけない』
なんて考えていたのがとんでもなく甘い認識だったということを思い知らされた。もし、俺一人で彼女の面倒を見ていたら、正気を保っていられたかどうか……
あんなに愛していたはずの彼女のことも、愛し続けられていたかどうかも分からない。
妹の最期を看取った経験があったから、きっとどんなことがあってもそれよりはマシだろうという甘い見通しがあったことは否めない。だが、違うんだ。妹の時とはまた違う無力感が俺を蝕もうとする。
それほど恐ろしい病気だということなんだな……
本当に、昔の人間達はどうやってこんな病気と付き合ってきたんだ……?
「介護に疲れ果て、心身共に異常をきたし、ついには事件に至ったという記録が多数あります。
故に人間は、私達メイトギアを欲したのでしょう。介護の負担を減らし、愛する人を愛し続けられる心の余裕を取り戻すために。
マスター。密の介護は私達にお任せください。私達はロボットです。疲れを知らず、苦痛を知らず、休むことなく完全な介護を行うことが私達メイトギアに与えられた機能なのです。どうぞそれを活かしてください。
そしてマスターは、最後まで密を愛してあげてください。
私達メイトギアは、その為に存在するのです」
エレクシアが、そう語ってくれた。
ぼんやりと虚空に視線を向ける密を抱き締めながら、俺は、
「ありがとう…ありがとう……」
と、何度も噛みしめるように口にした。
エレクシアの言う通り、俺は、壊れるまで密と一緒にいることを望んだことと引き換えに、彼女を最後まで愛することを誓ったんだ。
彼女はもう、どうやら俺のことも分からなくなってしまったらしい。
でも、いいんだ。
それでも俺は彼女を愛してる。口先だけになってしまってるんじゃないか?という不安はありつつも、それでも愛してる。
その気持ちに嘘はない。
挫けそうになるのもありつつも、な。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる