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幸せ

知恵を絞ることを(諦めたくない)

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新暦〇〇二三年九月四日。



ここでの<小さな社会>というのは、もちろん第一義的には俺達の<群れ>のことだ。

幸い、今のところは大きな価値観の相違はないものの、お互いに折り合うことができてるものの、それだってたまたまだという面もあるだろう。

俺の、

『この惑星では俺達の方が異物だから、なるべく過剰に干渉しないようにする』

という考え方に異を唱え、

『積極的に人間が生きやすい環境を作っていった方がいい』

と考える者がいたって何も不思議じゃないんだ。

幸い、大きな衝突が起こるほどの価値観の相違が生まれてないことは、本当にありがたい。

とは言えそれも、今が幸せだから『現状で十分』と考えることができるというのもあると思う。現状に強い不満があればそれを解消する為に変革を求めようとする動きだって出てくる可能性はある。

それが必要ないと思わせてあげられてるのなら、喜ばしいことだ。誇らしいことだ。

これからもそういられるようにしていきたい。

ただ、もし、今後、俺の考え方に異を唱える者が出てきたとしても、お互いに折り合いが付けられるように知恵を絞ることを諦めたくない。

考えることを放棄して力で捩じ伏せて従わせるようなことはしたくない。

……って、それは今までの方針そのものか。

子供達がここから巣立って野生に戻っていくのを受け入れてるのだって、考えてみれば、

『ここで一緒に暮らしていたい』

という俺の本音の部分の価値観とは相容れないにも拘らず受け入れてる訳だしな。

そうだ。親としての正直な気持ちの中では、ほまれめいじょうそうかいりんも翔(しょう)もすいも、そしてその子供達も、みんなみんな、俺の手の届くところで、俺の庇護下で、エレクシアやメイフェアやシモーヌやドーベルマンDK-aらが作る防衛網の中で、安全に安穏として暮らしてほしいというのが俺の本心だし、それが俺にとっての<理想の社会>だ。

だが、ずっとここで暮らしてたはずの、あらたと一緒に野生に帰ることを放棄してたように見えてたはずのりんが草原で生きることを選んだように、俺の思う通りにはなってくれない。

本当は、すごく心配なんだ。特にりんは長くここで暮らしてて果たして本当に野生の暮らしに適応できるのか今でも心配だし不安なんだ。できれば今からでも帰ってきてほしいとさえ思ってる。

でもな。そんな俺の気持ちを押し付ければ、たぶん、あの子達は息苦しさを感じてしまうと思うんだ。

人間ほどしがらみに囚われたり難しく考え込んだりしないあの子達がその生き方を選んだのなら、そっちの方が向いてるからだと思うんだ。

それを、俺の気持ちを押し付けて型に嵌めるのは違うんじゃないかな。

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