385 / 2,554
幸せ
歪な感情でも(正直な気持ちではある)
しおりを挟む
新暦〇〇二三年九月三日。
鷹が亡くなって数日が経ち、庭に作られた刃と鷹と連の墓を見る。
備えられた花がすっかり根付いて花壇のようになった刃と連の墓と同じように、鷹の墓もいずれは花で埋まるんだろうな。
それと同時に、墓そのものも増えていくんだろう。俺はさしずめそれを守る墓守か……
悪くない。大切な人を残して自分が去るよりは、見送る方がまだ気が楽ってもんだ。悲しませるよりは、自分が悲しむ方がいい。
歪な感情かもしれなくても、正直な気持ちではある。
思えば妹のことにしたって、あの子を残して俺が先に逝くようなことがなくて本当に良かった。
ああでも、見送られるよりは見送る方が楽ってのは、その時のことが影響してるのかも知れないな。あの子を見送れたことでホッとしたことが、影響してるのかもな。
グラスを片手に手酌でちびりちびりとやりながら、そんなことを思う。するとそこへ、密がやってきた。
刃の時と同じように、俺を慰めに来てくれたらしい。俺に寄り添うように座って、体を預けてくる。
改めて密も年齢を重ねてるのが察せられた。毛で覆われてるから人間よりは分かりにくいかもしれないが。
それでもやっぱり可愛いし、好きなんだ。
こうやって俺が落ち込んでたりすると、それを察して慰めに来てくれるからっていうのもあるかもしれない。
人間、優しくされると気持ちが傾くからな。
と言っても、実際に人間社会にいた頃の俺は優しくされてもそれを疑ってかかってたわけで、本当に始末が悪い。ここに来たことで素直になれたんだから、なおさらだ。
そんな自分に苦笑いを浮かべながらも、密に訊いてみる。
「…なあ、密。お前にとって刃や鷹はどういう存在だった…? 俺をめぐるライバルか? それとも家族か…?」
なんて俺の質問が理解できる訳もないのは分かってるが、ついつい問い掛けてしまう。
「…?」
当然、密は不思議そうに小首をかしげながら俺を見るだけだ。
だが、それでいい。俺だって別に答えを期待して尋ねた訳じゃない。ただ訊いてみたかっただけだ。それに言葉で答えてくれなくたって、これまでの様子を見てれば分かる。
密達はちゃんとお互いを<仲間>と認識してくれてた。だから俺は幸せを実感できてたんだ。穏やかな気持ちでいられた。一緒に暮らしてる者同士が険悪な仲だったりしたら、あんなにリラックスしてられなかったはずだからな。
家族同士でいがみ合ってる家庭があったりするが、なぜそんなことをしてるのか、俺には理解できないよ。
鷹が亡くなって数日が経ち、庭に作られた刃と鷹と連の墓を見る。
備えられた花がすっかり根付いて花壇のようになった刃と連の墓と同じように、鷹の墓もいずれは花で埋まるんだろうな。
それと同時に、墓そのものも増えていくんだろう。俺はさしずめそれを守る墓守か……
悪くない。大切な人を残して自分が去るよりは、見送る方がまだ気が楽ってもんだ。悲しませるよりは、自分が悲しむ方がいい。
歪な感情かもしれなくても、正直な気持ちではある。
思えば妹のことにしたって、あの子を残して俺が先に逝くようなことがなくて本当に良かった。
ああでも、見送られるよりは見送る方が楽ってのは、その時のことが影響してるのかも知れないな。あの子を見送れたことでホッとしたことが、影響してるのかもな。
グラスを片手に手酌でちびりちびりとやりながら、そんなことを思う。するとそこへ、密がやってきた。
刃の時と同じように、俺を慰めに来てくれたらしい。俺に寄り添うように座って、体を預けてくる。
改めて密も年齢を重ねてるのが察せられた。毛で覆われてるから人間よりは分かりにくいかもしれないが。
それでもやっぱり可愛いし、好きなんだ。
こうやって俺が落ち込んでたりすると、それを察して慰めに来てくれるからっていうのもあるかもしれない。
人間、優しくされると気持ちが傾くからな。
と言っても、実際に人間社会にいた頃の俺は優しくされてもそれを疑ってかかってたわけで、本当に始末が悪い。ここに来たことで素直になれたんだから、なおさらだ。
そんな自分に苦笑いを浮かべながらも、密に訊いてみる。
「…なあ、密。お前にとって刃や鷹はどういう存在だった…? 俺をめぐるライバルか? それとも家族か…?」
なんて俺の質問が理解できる訳もないのは分かってるが、ついつい問い掛けてしまう。
「…?」
当然、密は不思議そうに小首をかしげながら俺を見るだけだ。
だが、それでいい。俺だって別に答えを期待して尋ねた訳じゃない。ただ訊いてみたかっただけだ。それに言葉で答えてくれなくたって、これまでの様子を見てれば分かる。
密達はちゃんとお互いを<仲間>と認識してくれてた。だから俺は幸せを実感できてたんだ。穏やかな気持ちでいられた。一緒に暮らしてる者同士が険悪な仲だったりしたら、あんなにリラックスしてられなかったはずだからな。
家族同士でいがみ合ってる家庭があったりするが、なぜそんなことをしてるのか、俺には理解できないよ。
0
お気に入りに追加
174
あなたにおすすめの小説
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】
m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。
その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで
あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる