上 下
383 / 2,554
幸せ

父娘揃って(素直にな)

しおりを挟む
ようを送る儀式も滞りなく終わり、俺は、じんの時と同じように酒とグラスを手に墓の前に座っていた。じんの時と違うのは、隣にあかりがいることだ。

「ねえ…お父さん……」

あかりが静かに話し掛けてくる。

「なんだ…?」

「私ね…不思議なんだ……ママのこと<お母さん>っていう実感ないのに、なんかすごく、こう、胸の辺りがキューッとするんだ……

なんでだろう…私にとってお母さんはシモーヌのはずなのに……」

「そうか……でも、あかりがそう感じるなら、それでいいんじゃないか? 何もおかしいことじゃないと俺は思うよ……」

「いいの…?」

「ああ、いい…それでいいよ……」

「そっかあ……それでいいんだ……じゃあ、泣いていいんだよね……」

「いいよ、好きなだけ泣いたらいい……」

「うん……」

そしてあかりは、

「う……うぁ…うぁああぁぁぁん……!」

と、大きな声を上げ、本当に幼い子供のようにボロボロと大粒の涙を流しながら泣き出した。

それにつられて、俺も、

「ぐ……ぐ…うっ……」

と嗚咽が漏れてしまう。

父娘二人して、ようの墓の前で泣いてるんだ。

すると、そんな俺とあかりの傍に来た者がいた。そして、そっと頭を撫でる。

あらただった。新が、俺達の隣でしゃがみ込んで、あかりの頭を撫でてくれてたんだ。

まるで、『よしよし』ってしてくれるように。



りんとの関係が上手くいかなかったのは残念だが、あらたも優しくていい子なんだ。だから自分の仲間が悲しんでるのを見て放っておけなかったんだろう。ただ、俺に対しては、ボスだし、まあ、迂闊に『よしよし』とかできないんだろうが。

実はこの時、ひかりも俺達の様子を見て泣いてしまってたらしい。しかもそれを、じゅんが『よしよし』してくれてたようだ。

ボノボ人間パパニアンは、人間由来の種族の中でも特に社会性という特質を強く残していて、仲間が辛そうにしてるとそれを労わるというメンタリティも残してるらしい。

だからこそ、らいの振る舞いが許されなかったんだろうなっていうのも感じる。人間と同じで、嫌なことをされるとしっかりと覚えていて、『やられたらやり返す』発想がしっかりあるんだろう。

ただ、それは言い換えれば、

『してもらったことは返す』

という方向にも働くものでもあるだろうから、労わってもらえた場合にはそれを返すということもできるんだろうな。

あかりは、あらたに対しても優しかったからな。でもまあ、やり過ぎるとりんがヤキモチを妬くからあまり構うことはしなかったが。

それでも、あかりに優しくしてもらえたことをあらたも覚えてたのかもしれない。

つまるところ、他人を労われば自分も労わってもらえる可能性が高くなるし、他人に攻撃的になれば自分も攻撃される可能性が高まるということなんだろうな。もちろん、必ずそうなるという訳じゃないにしても、少なくともはっきりと体感できる程度の差はあるんじゃないだろうか。

とは言え、周囲にいる人間が揃いも揃って人でなしだったりするといくら労わってみてもそれをいいように利用されるだけだったりするかもしれないから、そういう場合は、そんな人間に囲まれている環境をまず何とかしないといけなかったりもするかもしれないが。

その点でも、あらたに対しては、ここでは誰も理不尽なこと(子供同士のじゃれ合いで無茶をされたことはあったとしても)をしなかったことで、あらたの方も優しくできるんだろう。

でも、気を付けないといけないのは、

『こっちが優しくしたら相手も優しくしてくれるのが当然』

とか思わないことだという気がする。自分が優しくしたからって相手も同じようにしてくれるとは限らない。それは事実だ。だから、『優しくしたら優しくしてくれて当然』と考えてるとその通りにならなかった時に苛々してしまって、結局自分も攻撃的になり、それがまた自分に返ってくるだろうし。

優しくされても態度が柔らかくならない人間は、元より相当根深い精神的病巣を抱えてるんだろうから。

昔の俺がまさにそれだったな……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...