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幸せ

お姉さんに導かれる少年(アリだな)

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新暦〇〇二二年七月二十六日。



来るべき日に向けて、相変わらずあれこれ考えてる俺だが、普段の生活ぶり自体はのんびりしたものだと思う。

<人生の目的>とか<目標>とか<人生設計>なんてのは、自分が生きていることについて意味を求めたがる人間の、ただの<癖>に過ぎないんだろうな。それに本当に意味や値打ちがあるとは、ここで暮らしてみると思えなくなった。

なにしろここでは、そんなものは何の役にも立たないんだから。

グンタイ竜グンタイみずちヒト蜘蛛アラクネ相手に、

『自分はこんなに立派な目標を掲げ、それに向かって絶え間ない努力を続けている立派な人間なんだ!』

と胸を張ったとして、それがあいつらに理解できるか?

できないよな。あいつらの、

『ただ生きる。生きる為に食う』

という本能の前には、人間が思う<価値>なんて何の意味もない。

だから本当は、俺がこうして思案してること自体に意味も価値もないことは分かってるんだ。分かった上で、他でもない俺自身が自分に恥ずかしくない生き方をしたいが為にあれこれ考えてるんだっていうのが事実だと思う。

それに、今は、ひかりあかりやシモーヌがいるからな。彼女らにとって俺は<人間>だから、<人間としてどう生きるか>ってことも多少は意味を持ってくる。

これを無視していいのなら、それこそ俺自身が野生の獣のように生きればいい。人間のふりをする意味もない。

そう。意味も価値も、自分以外の人間がいるから生まれるものなんだ。人間がそういうものに拘ってしまう生き物だから。

俺が『親としてひかりあかりじゅんとどう接するか』っていうのも、それがひかり達相手だから意味を持つんだろうな。

正直、ほまれ達が相手だと、俺はそれこそ何もできなかったし。『あの子達の存在を受け止める』という以外は。

ただこれも、人間として生きるのなら大切なことだろうとは思う。そういう、意味とか価値とかいうものに拘るという変態的な生態を得てしまった以上、そうじゃなかった頃には戻れない。人間という種が存続する限り、もしくは、今と全く異なる生態を獲得するまでは、付き合っていかなきゃいけないんだろうな。

とは言え、ひかりあかりはそれも理解できても、じゅんに人間の理屈を理解させることはたぶん無理だ。

さりとて、まったくボノボ人間パパニアンのままだと、おそらくひかりとの関係は成立しないだろうな。

無理はさせたくないが、可能な限りは、折り合いをつけてもらえるようにしていかなきゃとは思うよ。



とか考えてる俺の前で、今日もひかりじゅんに絵本を読み聞かせてやっていた。

その姿がまるで母子のようにも見えて、

『なるほど。<お姉さんに導かれる少年>という路線ならアリだな』

とも思ってしまったのだった。

まあ、ボノボ人間パパニアンとしてはすでに<少年>ではないけどな。

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