上 下
337 / 2,554
幸せ

自分に都合のいい解釈(に過ぎなくても)

しおりを挟む
新暦〇〇二二年五月十八日。



「たまにはいいですね。こうやってぼんやりするのも」

また俺達チームAアルファが休みの日、俺の隣でシモーヌも釣り糸を垂らしていた。その様子が、まるで同じ釣りを趣味にしている老夫婦のようにも思えて、なんだか頬が緩んでしまう。

「だろ? 考え事するのにもちょうどいいし」

「確かに。何の責任も目標もない釣りだからこそ、でしょうけど」

「ああ。魚を捕らえたいだけなら網ですくえばいいのに、わざわざこうやって釣り糸を垂らしてただかかるのを待つ、なんていう<不毛な行為>が今なお趣味として残っている理由が分かる気がするよ。すごく、癒されると言うか」

「分かります。それ」

なんていうやり取りを、エレクシアが見守ってくれている。

それをつい申し訳なく感じてしまうものの、エレクシア自身は決して自分が置かれてる状況を僻んだりすることもない。彼女は<ロボット>だから。

彼女がもし、本当にただの機械にしか見えない、それこそドーベルマンDK-aのようなロボットだったら、こうやって待機してても何とも思わないだろう。むしろ休んでくれてるようにさえ見えるかもしれない。なのに、人間の姿をしているからこそ、申し訳ないような気持ちにもなってしまう。

メイトギアが人間の姿をしてるのは、あくまで心理的な圧迫を和らげる為の筈だった。しかしそれが同時に、必要以上の共感を呼び覚ましてしまって、しなくていい同情をしてしまうというのも、矛盾と言えば矛盾なのか。

なので、

「そこのチェアに腰掛けて、待機しててくれ」

と、わざわざ命令する必要があったりもする。

「承知しました」

彼女はそう応え、俺がいつも使ってるチェアにもたれて待機してくれた。すると不思議なもので、途端に寛いでるようにも見えるんだから、人間の感覚というのは、案外、いい加減なものだと分かる。

彼女はロボットなので、立ちっぱなしでも疲れないし、むしろ咄嗟の対応の為には立っていた方がいいのは分かっているのに、それよりも『立たせっぱなしにしていることの罪悪感を和らげるのを優先』してしまうのも、人間というものか。

まあ、今のところは、そこまで切羽詰まった危険がある訳でもないからな。何か危険な生物が迫ってたとしても、早期警戒網のおかげで早々に対処できるし。

なんてことも、のんびりとぼんやりと考えることができる。いや、実にいいのが見付かったな。

なんだかそれも、はるかちからがもたらしてくれたもののような気がする。

たとえそれがただの『自分に都合のいい解釈』に過ぎなくても、気持ちが休まるのならそう思っておけばいいんだろうな。



ところで、『遺体が埋められてる池で釣った魚なんてよく食べられるな』と思うかもしれないが、ここで長く暮らしてると、命ってのはあくまで循環の一部だっていうのが実感できるのか、なんだか慣れてしまったよ。今じゃあんまり気にならない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...