333 / 2,387
幸せ
まさか話題にしたから(という訳じゃないと思うが)
しおりを挟む
新暦〇〇二〇年八月二十六日。
まさか不定形生物のことを話題に出したからという訳じゃないだろうが、最近、悠の様子がおかしい。元気がないんだ。
來と晃以降、子供ができなかったが、既に來も晃も巣立って子を生し、立派にワニ人間として生きている。來の方は四人目。晃にも最近、三人目の子供が生まれたのが確認された。
子供達にも孫達にも特に何か問題は見られず、不定形生物由来の生き物もしっかりとこの世界に定着できるんだということが改めて確認できた。
その役目を終えたとでも言わんばかりの変化に、胸が締め付けられる気がする。
新暦〇〇二〇年十月十一日。
そんな予感を裏付けるように、悠は、日を追うごとに明らかに衰弱していった。病気ではないから治療のしようもない。治療カプセルで手当てしたとしても衰弱を少し遅らせる程度にしかならないことは分かっていた。
ワニの寿命はけっこう長いらしいが、ワニ人間はあくまでワニ人間であってワニではない。
そう自分に言い聞かせて、俺もその日を待つ。
新暦〇〇二〇年十月二十五日。
日に日に弱っていく悠を、力は甲斐甲斐しく世話を焼いた。餌を運んでやって食べさせてやり、顎の力が弱って骨ごと噛み砕けないとなれば自分が噛み砕いたものを口移しで食べさせた。
その献身的な<介護>は、果たして人間でもここまでできるかというほどのものだったと思う。
しかしその甲斐もなく、悠は静かに息を引き取った。明け方、エレクシアが心停止を確認。
「悠が亡くなりました」
と報告してきた。
「……そうか……」
寝ているところに報告を受けたことで、俺は、ぼんやりした頭で悠を悼んだ。
意識がはっきりしてきて起きてから様子を見ると、力が悠の遺体をしっかりと抱き締めていた。
悠の基となったのであろうワニ人間の個体が病死した時には激しく泣いた力だったが、今回のことは予感があったのか、そこまでじゃなかったようだ。
光と灯も起きてきて、それぞれ、黙祷したり手を合わせたりしてくれる。
それから一時間ほどして、力は悠の遺体を抱いたまま、池の中に姿を消した。
池の水が泥に濁り、そして十分ほどして力が再び姿を現した時には、悠の遺体はなかった。
どうやらワニ人間には、<埋葬>という習慣があるらしい。自分のパートナーが死ぬと、河の底の泥を掘って埋めるのだ。
これは、パートナーや自分の子供といった特別な存在だけにするものだと見られている。しない者もいるようだし、場合によっては食べてしまったりもするらしいが、力はワニ人間にしては柔和な気性だったからというのもあるのかもしれない。
まさか不定形生物のことを話題に出したからという訳じゃないだろうが、最近、悠の様子がおかしい。元気がないんだ。
來と晃以降、子供ができなかったが、既に來も晃も巣立って子を生し、立派にワニ人間として生きている。來の方は四人目。晃にも最近、三人目の子供が生まれたのが確認された。
子供達にも孫達にも特に何か問題は見られず、不定形生物由来の生き物もしっかりとこの世界に定着できるんだということが改めて確認できた。
その役目を終えたとでも言わんばかりの変化に、胸が締め付けられる気がする。
新暦〇〇二〇年十月十一日。
そんな予感を裏付けるように、悠は、日を追うごとに明らかに衰弱していった。病気ではないから治療のしようもない。治療カプセルで手当てしたとしても衰弱を少し遅らせる程度にしかならないことは分かっていた。
ワニの寿命はけっこう長いらしいが、ワニ人間はあくまでワニ人間であってワニではない。
そう自分に言い聞かせて、俺もその日を待つ。
新暦〇〇二〇年十月二十五日。
日に日に弱っていく悠を、力は甲斐甲斐しく世話を焼いた。餌を運んでやって食べさせてやり、顎の力が弱って骨ごと噛み砕けないとなれば自分が噛み砕いたものを口移しで食べさせた。
その献身的な<介護>は、果たして人間でもここまでできるかというほどのものだったと思う。
しかしその甲斐もなく、悠は静かに息を引き取った。明け方、エレクシアが心停止を確認。
「悠が亡くなりました」
と報告してきた。
「……そうか……」
寝ているところに報告を受けたことで、俺は、ぼんやりした頭で悠を悼んだ。
意識がはっきりしてきて起きてから様子を見ると、力が悠の遺体をしっかりと抱き締めていた。
悠の基となったのであろうワニ人間の個体が病死した時には激しく泣いた力だったが、今回のことは予感があったのか、そこまでじゃなかったようだ。
光と灯も起きてきて、それぞれ、黙祷したり手を合わせたりしてくれる。
それから一時間ほどして、力は悠の遺体を抱いたまま、池の中に姿を消した。
池の水が泥に濁り、そして十分ほどして力が再び姿を現した時には、悠の遺体はなかった。
どうやらワニ人間には、<埋葬>という習慣があるらしい。自分のパートナーが死ぬと、河の底の泥を掘って埋めるのだ。
これは、パートナーや自分の子供といった特別な存在だけにするものだと見られている。しない者もいるようだし、場合によっては食べてしまったりもするらしいが、力はワニ人間にしては柔和な気性だったからというのもあるのかもしれない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる