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幸せ

お互いに近寄らないようにして(それが本音だよ)

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ローバーに乗って立ち去る俺達を、ばんは木の上から睨み付けるようにして見ていた。『もう二度と視界には入らない』という俺の提案があいつに理解できる筈もないが、少なくともあいつの視界に入りさえしなければ問題はないだろう。この辺りの調査は、当面、ドローンを使って行うことにするか。

あいつを死なせずに済んだことに、俺は正直、ホッとしていた。こう何度も顔を合わせてると、友好的とは言えなくてもそれなりに情も移るからな。

俺達が現れなくなれば、あいつは平穏に暮らしてくれるだろうか。

もっとも、凶暴で冷酷な肉食獣であるあいつにとっての<平穏>がどういうものかは、説明するまでもないが。

捕食対象となる生き物にとってあいつはまさに悪魔のような存在だろう。俺だって、エレクシアの護衛がなければ、自分の身を守る為に容赦なく自動小銃やライフルを使って<排除>してただろう。

じんを亡くし命の大切さを改めて感じたとしても、<生きる>というのはこういうことだというのも改めて実感する。生きる為には他の命を奪わなけりゃいけなくなることもあるっていうのをな。

でも、だからこそ命を疎かにしたくはないと今は思う。自分達の命が他の命の上に成り立ってるんだってことを。自分の命を疎かにするということは、自分に連なる、自分の糧となってくれたすべての命を疎かにするのと同じなんだって、素直に思える。

これは決して綺麗事じゃない。自分が生きていて自分の命を大切だと主張したいなら認めなきゃいけない厳然たる事実だと思う。もし他の命を蔑ろにするというのなら、自分の命も同じように蔑ろにされることを覚悟しなきゃいけないとも思う。自分ばかりが優遇されることを、世界は決して認めてくれない。

どんなに強大な力を持っていても、死は必ず訪れるもんだし。

人間も、その辺りをわきまえてゆっくりと拡大を続けるようにしたからこそ、ここまで生き延びられたのかもしれない。それでもいずれは種としての限界を迎えるかもしれないが、少なくとも自滅するような真似はしたくないもんだ。

なんて、こんなところでそれを言っても意味ないが。



ばんのことは取り敢えずそういうことにして、その日は家に戻った。すると、うちの<庭>を、ボクサー竜ボクサーの子供が三頭、走り回っていた。

駿しゅんの群れの子供達だ。以前から時折、ちょろちょろと庭に入り込んでたりしてたんだが、俺達が全く手出しをしてこないのをいいことに、我が物顔で居座るようになってしまったようなのだった。

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