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子供達

獣の一匹(まあ、気持ちの上ではということで)

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しん達には、人間の感覚の名残と思しき部分と、安全に野生の獣の感覚というものが、本当に混然一体となって同居してる。それを上手く説明できるだけの知識は俺にはないが、でもまあ、『そういうものだ』ということで受け入れてしまえばそれほど気になるものでもない。

人間社会で言えば殺人犯と同居してるようなものと言えなくもないとしても、少なくともしん達は人間のような悪意や恨み辛みでそれを行ってる訳じゃないから、付き合っていく上での『何となく押さえておくべき点』さえ心得てれば、油断はできないがそれほど神経質になる必要もないっていうのがこれまでの実感だな。

人間にも野生の獣と一緒に暮らしてる物好きもいるが、そういうのが全員、獣に襲われて命を落とす訳でもない。中には残念な結末を迎える事例があるとしても、まあ当人はそれも覚悟の上だろうし、他人があれこれ言うべきものでもないんだろう。

俺の場合は、遭難した上での『避けられない状況』だった訳だが、ある程度は折り合いをつけて、可能な限り『郷に入っては郷に従う』方針でいるんだから、これもまあ、覚悟の上ではある。

高い塀を築き獣らの侵入を徹底的に防ぎ、<人間らしい生活>をするという手も確かにあった。コーネリアス号に閉じこもってしまえば、それこそ不定形生物の侵入にさえ気を付けてれば、清潔で上品な生き方もできたと思う。

だが、俺はそれを選ばなかった。

どうしようもなく受け入れがたい存在と対立してしまった時には、生きる為に、家族を生かす為に、それを排除する覚悟も持ちつつ、侵略者よろしくこの世界を俺の思うままにしようとも思わない。

もし、獣に殺されて、この惑星の生命の循環に組み込まれてしまうならそれもよし。もしそうじゃなく人生を全うできても、亡骸はそのまま土に埋めてもらって、他の命の糧になるのもいいと思ってる。

そうだな。俺自身が、ここに棲む<獣>の一匹になったようなものかな。

ただの普通の人間である俺が本当に<獣>になれる訳じゃないが、そういう心持ちでいようというのだけは忘れたくない。

なんて、これも詭弁の類だけどな。

いくらでも使い放題の電気があって、ドローンをはじめとした便利な道具があって、エレクシア達メイトギアの堅牢な守りがあってこその余裕ではある。

でも、現にあるものを便利に使うのは別に悪いことでも恥ずかしいことでもないと思う。これを使って悪さをしようとか思ってる訳でもない。

ただ俺は、ここでできた<家族>とのんびりと生きていたいだけなんだ。

もっとも、その<のんびり>というもの自体が、安全を保障された人間社会のそれとは違って、少々、命懸けってものでもあるかもしれないけどな。

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