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シモーヌ

ロボット排斥主義者(いや、冷静に考えて無理だろう)

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新暦〇〇〇九年二月五日。



ところで、メイトギアがデータを連綿と受け継いでいるとなるとその管理はどうなっているのか?と気になるところかもしれないが、実はそのまま覚えてるわけじゃないそうだ。

基本的には、主人が亡くなったり、変わったりするとその時点で前の主人の詳細な情報についてはロックが掛けられ、概要以外は参照できなくなるんだと。

特にプライベートな部分についてはそれこそ触れなくなる。

メイトギアは主人のことをよく理解してるので、主人が他人に知られたくないと考える点については、しっかりと対処してくれるらしい。

『他人に危害を加えるための<犯罪計画>でもない限りは』

という注釈付きではあるが。

だから、個人情報と紐付けされていない<人間の行動パターン>と、『かつてそういう人がいた』という概要などについては基本的にそのまま残るものの、それ以外についてはロックが掛けられて圧縮されて、通常は取り出せない情報として整理されるそうだ。

それらのデータについては、そのまま残していると、当然、ストレージを圧迫することになるので、別のストレージに移動させて保管するか、メーカーにメンテナンスに出して完全に消してもらうこともできる。

が、別のストレージに移動させて保管するのはともかく、完全に消してしまう人間は少数派らしいけどな。自分の祖先に関するデータとなると、さすがに消してしまうのは忍びないんだろう。

ちなみに、俺の家にいたメイトギアのデータは、当然、エレクシアが引き継いでいる。ただ、俺がそれに触れないようにしてて、彼女もその意図を汲んでくれてるだけだ。

正直、今でもあまり愉快な記憶じゃないからな……



話は変わって、昔は、人型のロボットのことを<アンドロイド>などと呼んでたらしいが、今ではその区別そのものが意味がないということですっかり廃れてる。

なんか、そういう区分を作ると、人型のロボットだけが特別な存在みたいに見えるってんで忌避されるようになっていったらしい。ロボットはロボット。どこまで行ってもあくまで人間の<道具>。メイトギアやレイバーギアという言い方もあくまで<商品としての種類>に過ぎないそうだ。

何しろAIが搭載されてる機械は殆ど、人間と同等以上の思考を行い、その思考力のすべてを『人間の為に尽くす』という形で発揮することが大前提になってて、それを使って何か悪さしようとすると、AIを搭載したすべての機械から総スカンを食って生活もままならなくなるとかいう、本当かどうかはともかくとしてそんな冗談のような話を聞いたことがある。

そういう状態を『AIやロボットに支配されている』って言って毛嫌いして、わざわざAIを搭載してない大昔の機械を再現した道具を使って、ロボットも身近に置かなくて、<人間らしい生活>っていうものを送ってる連中もいるらしいが、さすがに俺もそこまでいってしまうと『物好きな』と思ってしまったりする。

どの植民惑星にもその手のコミュニティは一定レベル(人口比で見ると〇.〇〇一パーセント弱)で存在し、しかも<ロボット排斥を訴えるテロリスト>の温床として警戒されているらしい。

もちろん、そういうコミュニティを形成してる人間が全員テロリストという訳じゃない。ただ、ロボット排斥を訴える以上はAIやロボットと一緒にはいたくないということで、結果として紛れ込んでしまうんだそうだ。

テロを行わないのならどんな価値観を持ってようが別に構わないが、なんでわざわざテロなんか起こすんだろうな。ロボットと暮らすのが嫌ならそこで大人しくしてるか、いっそ自分達で惑星を見付けて開発して、鎖国して自分達の思うように生きればいいのにな。

って、かつてそれを実際に目指したスペースコロニーがあったらしい。

しかし、自分達が生存可能な生活環境を維持するのには結局のところAIやロボットに頼るしかないっていう自己矛盾に陥って、その中で条件付きロボット容認派と、あくまでAI&ロボットの排斥を訴える原理主義者とに分裂して内紛になって、大変な犠牲者が出たという、もはや伝説扱いの<事件>もあったんだと。

植民惑星を開発するとかとなれば、それこそ人力と、AI非搭載の機械だけでそれを行うとか、およそ現実的じゃない。しかも、既に存在する社会の中でAIやロボットを排除して生きようなんて考えに賛同する人間も増えようがない(何しろロボットの方が人間より確実に優しい)し、あのメイトギア特有の嘘臭い笑顔には辟易してた俺だったが、さすがにそこまではとは思ってたんだよな。

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