220 / 2,387
シモーヌ
メイトギアの本能(ロボットの存在意義とか)
しおりを挟む
新暦〇〇〇九年二月四日。
イレーネLJ10、いや、イレーネは、先にも言ったとおり、メイトギアとしてはほぼまともな機能を残していない、明らかな<欠陥品>としてして俺に仕えることになった。
メイフェアと同じく感情を再現したバージョンのアルゴリズムを与えられているが、どうやらその感情も上手く表現できない状態にあるらしい。エレクシア以上に無表情で無感情な印象のある顔つきになり、記憶領域が破損している為に新しいことが殆ど覚えられず、言われたことをただ実行するしかできなかったのだった。
それでも、俺は彼女を捨てる気にはなれなかった。やっぱり二千年もあれだったことを思うと、情も移るってものだろう。
それに、今、メイフェアが設計してる義手を付ければ、右手もある程度は使えるようになる訳で、セシリアの助手的な立場で家のことくらいはできるようになってくれるだろう。いちいち指示を与えないといけないのも、セシリアが全て通信で行ってくれる。システムの一部が破損しててリンクはできないが、そもそもこれだけ壊れているとリンクする意味がないのでそれも別にいい。
簡易な義足を着けた足を引きずりながら、残された左手だけでなんとか家事をこなそうとするその姿がいじらしくて、なんか泣けてきそうだよ。
「自身がどれほど壊れても、動ける限りは人の為に尽くそうとするメイトギアの<本能>のようなものを感じますね……」
灯に離乳食を与えながらシモーヌがそう言う。俺も同感だった。
今のイレーネの姿は、メイトギアに限らずロボットの<業>とさえ言えるものだろう。
人間の幸福のために尽くすことを存在意義とし、人間に代わって危険な作業をこなし、人間に代わって辛い作業をこなし、時には人間に代わって戦争し、そして人間を守って破壊される。
それがロボットの姿なんだというのを改めて突き付けてくるな。
人間は既に、死刑制度を廃止し、建前上は戦争を放棄し、それによって『正義の名の下に行われる殺人』そのものを否定したことで、『理由さえあれば人を殺して良い』という考え方を大きく和らげることに成功した。
それもあって、人口十億人当たりの殺人事件の件数も今では年間数十件というレベルにまで減っている。当然だろう。『人を殺さなきゃいけない理由なんてない』と思ってれば、そもそも殺そうという発想にならないんだし。もちろんそういう発想を持つ人間がゼロになった訳じゃないが、確実に減っているのは間違いない。
その分、例えば外敵からの守りについてはほぼすべてロボットに置き換わってしまっている。殺人事件の殆どはテロだ。だから要人警護仕様のメイトギアの需要もある。<要人の動く盾>となるのはすべてメイトギアを主としたロボットの役目だった。もっともこれについては、メーカー側がメイトギアの性能をアピールする為に利用するパフォーマンスに過ぎないという一面もあるが。モデルチェンジ毎に<最強のメイトギアの座>をメーカー間で争ってるらしい。
また、軍事的に緊張状態にある地域での哨戒活動や警備もそうだし、たとえ紛争や内戦のような戦争が起こっても、実際に戦っているのはロボットであり、それを現場で指揮・運用する人間でさえ戦死することは稀になった。そこまでいくともはや<戦死>と言うより<事故死>のようなものだ。人的被害が少ないからそこに生じる恨みも少ない。
ただ、リヴィアターネという惑星が発端となってパンデミックが起こりかけた時には、完全無人のロボット艦隊が惑星を包囲し、徹底的に封鎖したそうだ。リヴィアターネから脱出しようとする者を一切の例外なく撃墜する為にもロボットが使われた。まあその時には、実際には生存者はいなかったらしいけどな。リヴィアターネで発生したのは、<そういう病気>だったらしい。
しかしそれでも、人間ではそこまで冷徹な対応ができない可能性があったから、ロボットが派遣されたんだ。
ある意味では、『汚れ仕事のすべてをロボットに押し付けた』っていう見方もできるんだろうな。
イレーネLJ10、いや、イレーネは、先にも言ったとおり、メイトギアとしてはほぼまともな機能を残していない、明らかな<欠陥品>としてして俺に仕えることになった。
メイフェアと同じく感情を再現したバージョンのアルゴリズムを与えられているが、どうやらその感情も上手く表現できない状態にあるらしい。エレクシア以上に無表情で無感情な印象のある顔つきになり、記憶領域が破損している為に新しいことが殆ど覚えられず、言われたことをただ実行するしかできなかったのだった。
それでも、俺は彼女を捨てる気にはなれなかった。やっぱり二千年もあれだったことを思うと、情も移るってものだろう。
それに、今、メイフェアが設計してる義手を付ければ、右手もある程度は使えるようになる訳で、セシリアの助手的な立場で家のことくらいはできるようになってくれるだろう。いちいち指示を与えないといけないのも、セシリアが全て通信で行ってくれる。システムの一部が破損しててリンクはできないが、そもそもこれだけ壊れているとリンクする意味がないのでそれも別にいい。
簡易な義足を着けた足を引きずりながら、残された左手だけでなんとか家事をこなそうとするその姿がいじらしくて、なんか泣けてきそうだよ。
「自身がどれほど壊れても、動ける限りは人の為に尽くそうとするメイトギアの<本能>のようなものを感じますね……」
灯に離乳食を与えながらシモーヌがそう言う。俺も同感だった。
今のイレーネの姿は、メイトギアに限らずロボットの<業>とさえ言えるものだろう。
人間の幸福のために尽くすことを存在意義とし、人間に代わって危険な作業をこなし、人間に代わって辛い作業をこなし、時には人間に代わって戦争し、そして人間を守って破壊される。
それがロボットの姿なんだというのを改めて突き付けてくるな。
人間は既に、死刑制度を廃止し、建前上は戦争を放棄し、それによって『正義の名の下に行われる殺人』そのものを否定したことで、『理由さえあれば人を殺して良い』という考え方を大きく和らげることに成功した。
それもあって、人口十億人当たりの殺人事件の件数も今では年間数十件というレベルにまで減っている。当然だろう。『人を殺さなきゃいけない理由なんてない』と思ってれば、そもそも殺そうという発想にならないんだし。もちろんそういう発想を持つ人間がゼロになった訳じゃないが、確実に減っているのは間違いない。
その分、例えば外敵からの守りについてはほぼすべてロボットに置き換わってしまっている。殺人事件の殆どはテロだ。だから要人警護仕様のメイトギアの需要もある。<要人の動く盾>となるのはすべてメイトギアを主としたロボットの役目だった。もっともこれについては、メーカー側がメイトギアの性能をアピールする為に利用するパフォーマンスに過ぎないという一面もあるが。モデルチェンジ毎に<最強のメイトギアの座>をメーカー間で争ってるらしい。
また、軍事的に緊張状態にある地域での哨戒活動や警備もそうだし、たとえ紛争や内戦のような戦争が起こっても、実際に戦っているのはロボットであり、それを現場で指揮・運用する人間でさえ戦死することは稀になった。そこまでいくともはや<戦死>と言うより<事故死>のようなものだ。人的被害が少ないからそこに生じる恨みも少ない。
ただ、リヴィアターネという惑星が発端となってパンデミックが起こりかけた時には、完全無人のロボット艦隊が惑星を包囲し、徹底的に封鎖したそうだ。リヴィアターネから脱出しようとする者を一切の例外なく撃墜する為にもロボットが使われた。まあその時には、実際には生存者はいなかったらしいけどな。リヴィアターネで発生したのは、<そういう病気>だったらしい。
しかしそれでも、人間ではそこまで冷徹な対応ができない可能性があったから、ロボットが派遣されたんだ。
ある意味では、『汚れ仕事のすべてをロボットに押し付けた』っていう見方もできるんだろうな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる