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シモーヌ

粉ミルク(残っていたのがありがたい)

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新暦〇〇〇八年六月二十日。



ひかりが生まれた時のひそかもそうだったが、やっぱり自分と姿が違いすぎると我が子だと認識できないようだ。それはまあ仕方ないと思う。そもそもどうして人間そのままの姿で生まれてしまうのかはまだよく分かっていないが、おそらくは<先祖返り>のようなものだと俺は推測してる。

それが事実かどうかは今のところどうでもいい。それにセシリアもいることだし育児については心配はしてない。

ただ、ようが求めてくるのが治まらないというのは、俺としては正直大変かなとは思う。でも、それも当然か。彼女にとっては死産と同じだったんだろうから。自分が集中して育てなきゃいけない<子>が生まれなかったんだから。

もしこれでようのことを責めるような人間がいれば俺はそれを不快に思う。彼女達にとって今回のことは自然の成り行きだからだ。育つ可能性のない子供を育てられるだけの余力は彼女達にはない。人間ほどいろいろな方法を試すこともできないんだからな。

対して人間は、こうやってメイトギアのような非常に心強い味方も得たんだ。にも拘らず我が子を見捨てるような真似をするなら、それはいくばくかの非難は免れないかもしれない。それでも、どうしても無理という場合はあるだろうから、だったら無理に親元に置くよりは育てられる者が預かるのが合理的だと思うし、今の社会はそうなっていた。

子供を育てられない、子供を育てる適性のない親から引き離して、子供を育てる能力があり育てたいと思う者の下で保護するというのは当たり前のように行われている。

<親の愛>というものをきちんと合理的に客観的に考えられるようになってきてるんだろうな。誰にでも一律、そういうものが目覚める訳じゃないっていうのも、医科学的に既に立証されているし。

その一方で、自分が産んだ子供じゃなくても愛せる人間もいるということも分かってる。

「可愛い……」

セシリアが抱いているあかりを見て、シモーヌがメロメロに頬を緩ませていた。恐らく一ヶ月もすれば、体はまだ小さくても普通の赤ん坊と同じように扱えるだろう。

なお、おっぱいの方だが、ようから搾乳ができる間は母乳を貰いつつ、それが出なくなったり量が足りなくなればミルクの出番だ。これは、コーネリアス号に保管されていた粉ミルクがまだあるから助かってる。

二千年以上前のものだといっても、長期保存が可能な食品関係の保存技術は非常に高く、念の為に品質を分析したが何の問題もなかった。元々はコーネリアス号の中で子供が生まれた場合を想定して積まれていたものらしいが、実際には使わず仕舞いだったことで、遭難後にコーヒーに入れる粉ミルク代わりにしたり調味料代わりにしたりという程度にしか使われなかったようだ。

つくづく、コーネリアス号を見付けられたのは幸運だった。そのおかげで本当に助かってるからなあ。

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