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シモーヌ
ファンデーション(まさか必要になるとは)
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新暦〇〇〇七年八月二十五日。
シモーヌが治療カプセルから出てさらに十日が過ぎ、骨も組織もしっかりしてきたのが確認できて、ギプスは外すことになった。
「しばらく無理はできませんが、痛みが出ない範囲で使うようにすれば大丈夫だと思います。リハビリにもなりますから」
セシリアがギプスを外しながらそう言った。「ありがとう」と応えつつシモーヌはゆっくりと左腕を動かしたり指を動かしたりしていた。
そうそうそれと、彼女の顔はもう透明じゃなくなっている。と言うのも、ここで採取した鉱物を原料にコーネリアス号の工作室でファンデーションを作り、それで肌色を再現してるのだ。
実は、これまでコツコツといろいろ分析してたデータの中に、ファンデーションの主な原料になっている鉱物と非常に近いものが河の泥の中に大量に混ざっていることを示すものがあって、女性なら化粧には慣れたものだろうからそれが一番確実だろうということでね。
しかし、まさかファンデーションを作ることになるとか思わなかったよ。一番人間に近い光だって別に化粧までさせようとは思ってなかったから。
同時に、植物油を燃やして作った煤を原料にした眉墨と、ベニバナに似た花から抽出した赤い色素を原料にした口紅も用意した。これらは、彼女が保護された時点で必要になることを見越してすぐに用意を始めたものだった。彼女が意識を取り戻すまでに用意できたのが幸いだ。
これらによって取り敢えず顔だけでも元の姿に近付けられたことで、彼女の精神にもいい影響があったようだ。それまでどこかぎこちなかった時もあった彼女の笑顔が普通になってきたんだからな。
ちなみに、髪の毛はコーネリアス号に置かれていたウィッグを被り、体の方は同じくコーネリアス号から持ってきた服を着ることで隠している。なお余談だが、衣料用の繊維も三千年ほど前には求められる品質は完成していて、現在まで大きく変化していない。しかも耐久性の面でも保存状態さえ極端に酷くなければ劣化も殆どしない為、コーネリアス号に保管されていたものがそのまま使えるのがありがたい。
ただ、<目>だけは現状ではどうにもならなかった。コーネリアス号の工作室でコンタクトレンズを作って試してみたんだが、白目の部分まで完全には覆えなくて、逆に違和感が酷いことになった。だからもうそのままにしてある。
ファンデーションとウイッグで光をほとんど遮られた頭の中が透けて見えてる状態だから、眼球そのものがブラウンっぽい色に見える。
正直、彼女がそれを気にしてあまり視線を合わせないようにしてるのは分かったものの、それについては俺も敢えて触れない。
そうしてシモーヌが自身がいくらか落ち着いたのを見計らって、少しずつ彼女の存在を俺の家族にも馴染ませるようにした。最初はちらりと顔を見せる程度で、それに慣れて警戒しなくなった段階で「こんにちは」と軽く挨拶をしてもらってという風に段階を踏んでね。
いくら人間である俺や人間に近い光に慣れてるとは言っても、余所者がいきなりずかずかと自分達の領域に踏み込んでくるのはさすがに予期しないトラブルの原因にもなる。
そんな形で慎重を期したことが功を奏したか、やがてシモーヌの存在にも慣れたのか、誰も彼女のことをひどく警戒したりはしなくなった。それどころか、エレクシアやセシリアに似ているからか、焔や新が彼女に抱きついたりしている。さすがにメイトギアと違って身体的には人間と変わらないシモーヌは抱きつかれると大変そうだったが、決して嫌がってはいなかった。
シモーヌは言った。
「私の赤ちゃんが生まれてたら、こんな感じだったんでしょうか……」
シモーヌが治療カプセルから出てさらに十日が過ぎ、骨も組織もしっかりしてきたのが確認できて、ギプスは外すことになった。
「しばらく無理はできませんが、痛みが出ない範囲で使うようにすれば大丈夫だと思います。リハビリにもなりますから」
セシリアがギプスを外しながらそう言った。「ありがとう」と応えつつシモーヌはゆっくりと左腕を動かしたり指を動かしたりしていた。
そうそうそれと、彼女の顔はもう透明じゃなくなっている。と言うのも、ここで採取した鉱物を原料にコーネリアス号の工作室でファンデーションを作り、それで肌色を再現してるのだ。
実は、これまでコツコツといろいろ分析してたデータの中に、ファンデーションの主な原料になっている鉱物と非常に近いものが河の泥の中に大量に混ざっていることを示すものがあって、女性なら化粧には慣れたものだろうからそれが一番確実だろうということでね。
しかし、まさかファンデーションを作ることになるとか思わなかったよ。一番人間に近い光だって別に化粧までさせようとは思ってなかったから。
同時に、植物油を燃やして作った煤を原料にした眉墨と、ベニバナに似た花から抽出した赤い色素を原料にした口紅も用意した。これらは、彼女が保護された時点で必要になることを見越してすぐに用意を始めたものだった。彼女が意識を取り戻すまでに用意できたのが幸いだ。
これらによって取り敢えず顔だけでも元の姿に近付けられたことで、彼女の精神にもいい影響があったようだ。それまでどこかぎこちなかった時もあった彼女の笑顔が普通になってきたんだからな。
ちなみに、髪の毛はコーネリアス号に置かれていたウィッグを被り、体の方は同じくコーネリアス号から持ってきた服を着ることで隠している。なお余談だが、衣料用の繊維も三千年ほど前には求められる品質は完成していて、現在まで大きく変化していない。しかも耐久性の面でも保存状態さえ極端に酷くなければ劣化も殆どしない為、コーネリアス号に保管されていたものがそのまま使えるのがありがたい。
ただ、<目>だけは現状ではどうにもならなかった。コーネリアス号の工作室でコンタクトレンズを作って試してみたんだが、白目の部分まで完全には覆えなくて、逆に違和感が酷いことになった。だからもうそのままにしてある。
ファンデーションとウイッグで光をほとんど遮られた頭の中が透けて見えてる状態だから、眼球そのものがブラウンっぽい色に見える。
正直、彼女がそれを気にしてあまり視線を合わせないようにしてるのは分かったものの、それについては俺も敢えて触れない。
そうしてシモーヌが自身がいくらか落ち着いたのを見計らって、少しずつ彼女の存在を俺の家族にも馴染ませるようにした。最初はちらりと顔を見せる程度で、それに慣れて警戒しなくなった段階で「こんにちは」と軽く挨拶をしてもらってという風に段階を踏んでね。
いくら人間である俺や人間に近い光に慣れてるとは言っても、余所者がいきなりずかずかと自分達の領域に踏み込んでくるのはさすがに予期しないトラブルの原因にもなる。
そんな形で慎重を期したことが功を奏したか、やがてシモーヌの存在にも慣れたのか、誰も彼女のことをひどく警戒したりはしなくなった。それどころか、エレクシアやセシリアに似ているからか、焔や新が彼女に抱きついたりしている。さすがにメイトギアと違って身体的には人間と変わらないシモーヌは抱きつかれると大変そうだったが、決して嫌がってはいなかった。
シモーヌは言った。
「私の赤ちゃんが生まれてたら、こんな感じだったんでしょうか……」
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