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シモーヌ

餌(これまでにも何度もあったに違いない)

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取り敢えず俺は、秋嶋あきしまシモーヌにゆっくり考える時間を与えるべく、メイフェアとセシリアを残してメディカルルームを出た。しばらくの間はここを彼女の部屋として使ってもらおうと思う。設備については俺が命令しないと宇宙船が全てロックしてあるから勝手なことをされる心配もない。

遺伝子的には完全に人間だし、同じ体を持ったはるかもずっと見てきたが一度決まった形をとってしまうともう元には戻れない感じだし疑いたくはないものの、まあ念の為だ。

それから二時間ほど三人で話をしていたらしいが、その内容の殆どは実に他愛ないものだった。コーネリアス号にいた頃の思い出話だ。訳の分からない現実を突き付けられたから、せめて昔話で心を落ち着けたかったんだろう。

申し訳ないが俺はその会話をずっとモニターさせてもらった。会話が記録されてることはメイフェアから告げてもらってある。突然転がり込んできた余所者である自分を全面的に信用できないことは彼女も分かってくれていて、それを気にしている様子はなかった。

俺は、彼女に付き添っているセシリアの代わりにひかりと一緒に家事をこなしながら、イヤホンでそれを聞いていた。

だがその最後の辺りで、秋嶋シモーヌは思い出してしまったらしい。自分があの不定形生物に襲われて死んだということを。そして、その時に婚約者との子供がお腹の中にいたことを。

しかし、彼女の体をスキャンしても胎児は影も形もなかった。あくまで<秋嶋シモーヌだけ>が再現されたということか。

彼女はそのことも知り、泣いていた。

ただこの時、彼女はこうも言っていた。

「たぶん私、あの不定形生物に襲われてからもしばらく意識があった気がする……死ぬまでのとかそういうのじゃなくて、かなりの時間なの。一日や二日じゃない、それよりももっと長い時間……

……でも、今はよく思い出せない。もしかしたらあれが<死後の世界>ってやつなのかしら…」

それを聞いた時、俺にはピンときた。

『これは、不定形生物だった時の記憶が残ってる可能性がある…!?』

とな。

けどまあ、焦る必要はない。ゆっくり思い出してもらえればいいし、もしそれが無理でも、不定形生物の秘密を解き明かしたいってのは俺のただの自己満足だ。分かったところで伝える相手もいないし。

が、それと同時に俺は気付いてしまった。今回の彼女の件は、あくまで俺達がいたから助けられただけで、実は二千二百年の間に何度もこういうことがあったに違いないってことを。以前にも思ったが、コーネリアス号の搭乗員達は今回と同じように再現されてはその度にこの星の生き物達の餌になってきたんだろうなってことをな……

死んでからもそんな目に遭うとか、どんな地獄だよ……

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