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大家族
帰還(二千年ぶりのご帰還だ)
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「良かったですね…マスター……」
洞窟の壁にもたれ、土埃に塗れたメイトギアのメイフェアXN12Aが微かに目を開けて、誉に向かって呟くようにそう言った。僅かに頭を動かすだけで、ショートボブにした金髪から埃が落ちる。さすがに二千年分の埃ということか。
「サスペンド状態から復帰する際に、誉を仮のマスターとして登録したようですね。非常時の措置です」
エレクシアが状況を解説してくれる。
キャパシタ内に残された僅かな電力を用い、省電力モードで再起動。異常な状況下に人間と思しき子供がいるということでその保護を最優先にした対応とのことだった。誉はサルのように体毛に覆われているが、全身に長い体毛が生える<先祖返り>と呼ばれるような症例は人間にも見られるので、それだと判断したのだろう。
もう体を動かすことさえままならない程度の電力しか残っていなかったが、エレクシアやセシリアに似た彼女に声を掛けられたことで誉が懐き、彼女と一緒にいることにしたらしい。その一方で、誉を追い回していた連中は途中で別の群れの縄張りに入り込んでしまったことで諦めたのだろう。
取り敢えず誉だけを連れ帰り、後でメイフェアXN12Aを回収しようかとも考えたが、誉が彼女から離れようとしないので、雨は降り出していたが仕方なくエレクシアが彼女を背負って連れ帰ることになった。メイトギアの防水性能は完璧なのでもともと心配は要らないが、雨もそれほど強くならずに済んだのは幸いだった。
帰路を急ぐ間、やはり省電力モードで動作していたメイフェアXN12Aとデータ通信を行い、コーネリアス号の遭難から既に二千年以上が経過していること、俺達は救助隊などではなくて同じ遭難者であること、彼女が保護していたのはこの地の生物がコーネリアス号の乗員の遺伝子を取り込み再現した人間の子孫であり、俺の息子でもあるということなどを伝えたそうだ。
「…そうですか…そんなことがあったんですね……」
そう呟いた後、メイフェアXN12Aは電力の消耗を抑える為に再びスリープモードに入ってしまった。
帰りも、たぶん俺達が縄張りから出たであろうことから途中から気配がなくなってたあの透明な個体率いるボクサー竜の群れにまたつきまとわれたり、他にもヤバそうなのと遭遇したりもしたものの、エレクシアが近寄らせないようにしてくれたので、特に危険もなく、夜には家に帰ることができたのだった。
雨の密林の中にその明かりを見付けた時には、俺はもう泣きそうになっていた。正直、情けないとも思うがこればかりは仕方ない。もっとも、誉は俺の背中で呑気に眠ってたがな。
俺達の家に近付くと、無線給電で充電を開始したメイフェアXN12Aも目を覚ましたかのように自分の足で歩き始める。
そして、出迎えたセシリアと向かい合い、
「おかえりなさい、メイフェアXN12A……」
「ただいま戻りました。セシリアCQ202……」
と、人間のように挨拶を交わした。約二千年ぶりの再会だった。
「ここのメンテナンスルームでは洗浄程度のことしかできませんが、取り敢えずそれだけでも受けてください。そのままでは家に上げる訳にはいきませんから」
相変わらず冷淡なエレクシアだったが、その目にはどこか労わるような柔らかさも感じられた気がしたのは、俺の錯覚だったのだろうか。
洞窟の壁にもたれ、土埃に塗れたメイトギアのメイフェアXN12Aが微かに目を開けて、誉に向かって呟くようにそう言った。僅かに頭を動かすだけで、ショートボブにした金髪から埃が落ちる。さすがに二千年分の埃ということか。
「サスペンド状態から復帰する際に、誉を仮のマスターとして登録したようですね。非常時の措置です」
エレクシアが状況を解説してくれる。
キャパシタ内に残された僅かな電力を用い、省電力モードで再起動。異常な状況下に人間と思しき子供がいるということでその保護を最優先にした対応とのことだった。誉はサルのように体毛に覆われているが、全身に長い体毛が生える<先祖返り>と呼ばれるような症例は人間にも見られるので、それだと判断したのだろう。
もう体を動かすことさえままならない程度の電力しか残っていなかったが、エレクシアやセシリアに似た彼女に声を掛けられたことで誉が懐き、彼女と一緒にいることにしたらしい。その一方で、誉を追い回していた連中は途中で別の群れの縄張りに入り込んでしまったことで諦めたのだろう。
取り敢えず誉だけを連れ帰り、後でメイフェアXN12Aを回収しようかとも考えたが、誉が彼女から離れようとしないので、雨は降り出していたが仕方なくエレクシアが彼女を背負って連れ帰ることになった。メイトギアの防水性能は完璧なのでもともと心配は要らないが、雨もそれほど強くならずに済んだのは幸いだった。
帰路を急ぐ間、やはり省電力モードで動作していたメイフェアXN12Aとデータ通信を行い、コーネリアス号の遭難から既に二千年以上が経過していること、俺達は救助隊などではなくて同じ遭難者であること、彼女が保護していたのはこの地の生物がコーネリアス号の乗員の遺伝子を取り込み再現した人間の子孫であり、俺の息子でもあるということなどを伝えたそうだ。
「…そうですか…そんなことがあったんですね……」
そう呟いた後、メイフェアXN12Aは電力の消耗を抑える為に再びスリープモードに入ってしまった。
帰りも、たぶん俺達が縄張りから出たであろうことから途中から気配がなくなってたあの透明な個体率いるボクサー竜の群れにまたつきまとわれたり、他にもヤバそうなのと遭遇したりもしたものの、エレクシアが近寄らせないようにしてくれたので、特に危険もなく、夜には家に帰ることができたのだった。
雨の密林の中にその明かりを見付けた時には、俺はもう泣きそうになっていた。正直、情けないとも思うがこればかりは仕方ない。もっとも、誉は俺の背中で呑気に眠ってたがな。
俺達の家に近付くと、無線給電で充電を開始したメイフェアXN12Aも目を覚ましたかのように自分の足で歩き始める。
そして、出迎えたセシリアと向かい合い、
「おかえりなさい、メイフェアXN12A……」
「ただいま戻りました。セシリアCQ202……」
と、人間のように挨拶を交わした。約二千年ぶりの再会だった。
「ここのメンテナンスルームでは洗浄程度のことしかできませんが、取り敢えずそれだけでも受けてください。そのままでは家に上げる訳にはいきませんから」
相変わらず冷淡なエレクシアだったが、その目にはどこか労わるような柔らかさも感じられた気がしたのは、俺の錯覚だったのだろうか。
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