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大家族

苦悶(思うに任せないことが苦しい)

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脱いだヘルメットは首から吊るして、何かあればすぐに被れるようにしておいた。こういう時は人間としての体が疎ましい。エレクシアのような機械の体ならこんな煩わしさはないんじゃないかと思いつつ、実は全身義体は全身義体で心理的な負荷が掛かるという話も聞くし、元々ロボットとして作られたエレクシア達と人間とでは根本的に違うんだろうなというのは改めて感じるな。

ロボットに<心>が再現されないのは、そういう部分も考慮しているらしい。なまじ心を持ってしまうと、機械の体であり<人間とは違う>ということが心理的な負担になるであろうことはこれまでの研究で分かってきていることだった。だから全身義体もそんなに普及しないし、部分義体のサイボーグにも、法律上、厳しくリミッターが掛けられてるそうだ。何しろ、強力な義体を装着すれば武器を携帯してるのと同じだからな。

まあそんな話はさて置いて、途中、何とも言えない異様なものを見かけたりもした。分厚く頑丈そうな皮膚がミイラ化してる以外は完全に白骨化した獣の死骸なんだろうと思うが、その大きさがとにかく尋常じゃなかった。もし仮にボクサー竜的な生き物だとしたら、大きさは間違いなく二十メートルを超えていただろう。ボクサー竜辺りの祖先の恐竜のような生き物だったのかもしれないが、それにしては新しい死骸にも見えた。多く見積もってもせいぜい数千年とかそこらしか経ってなさそうな……しかし、気にはなるが、今は構っていられない。

他にも、ヒョウ人間にも遭遇したものの、エレクシアが人間の耳には殆ど聞こえない、高周波の警告音を発して威嚇してくれたことで襲ってはこなかった。とは言え、完全に俺を狙ってたから、やっぱり彼女がいないと、俺なんか、数日どころか数時間も生きていられないだろうなと思わされた。

たとえヘルメットまでしっかり装着していても、今度は熱中症で死にそうだ。つくづく人間の脆弱さを感じるよ。たまに、素手で野生動物を倒したとかいう格闘家の話を聞いたりもするが、いやいや、そんなのは例外中の例外だろう。百メートルを九秒台で走れる短距離選手だってまだ百人もいないと聞くし。一方で、百メートルを九秒台で移動するくらい、ふくなら余裕らしい。

それどころか、ひそかじんようでさえ、ちょっと練習すればそれくらい余裕でこなせるポテンシャルを持ってると言う。生態としてその必要がないだけで。草原でそれなりの距離を走って獲物を追いかけたりもしなきゃならないふくは元々、百メートルくらいなら走ることも多いだろうが。

なんて、今はどうでもいいことがついつい頭をよぎるのは、もう二時間以上歩いて体中のあちこちが痛くなってきてるからそんな風に考え事をして気を紛らわすしかないからかもしれない。考えてみれば、俺自身は宇宙船に閉じこもって安全を確保した上でエレクシアに捜索に出てもらうという手もあったが、完全に冷静さを失っていたな。我が子のこととなるとついというのは、親ならよくあることなのかもしれないな。

何気なく空を見上げると、どんよりとした雲が空を覆っていた。日差しがない分、まだ気温も低くて済んでるのはありがたいが、雨が降るとマズいか。

ほまれ、無事でいてくれよ……」

思わず声を漏らした俺に、エレクシアが言う。

「血の匂いなどは殆ど混じっていませんので、おそらくはここまでは無事だった筈です」

……まったく、お前は本当に冷静だな。ま、ロボットだから当然か。

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